第五話 追い出した国
ソウノクニは小さい。
軍事力もさほどない。
資源も少ない。
大国から見れば、地図の端にある小さな点のような国だった。
しかし、キョウソはそこを嫌っていた。
かつて自分が追い出された国だからである。
ソウノクニの古い広場には石碑があった。
名もない市民たちの名前が刻まれている。
国外から来た記者が老人へ尋ねた。
「なぜ、あの宗教団体を追放できたのですか」
老人は石碑を見上げた。
「簡単じゃなかった」
笑っていた。
「政治家も裁判官も買われた。
新聞も買われた。警察にも入り込んだ」
それは、いまキーツの国で起きていることと同じではないか。
「怖くなかったんですか」
老人は答える。
「怖かったさ。
でも先人たちは命をかけて戦った。
おかげで今のこの国がある。」
記者は黙った。
老人は続けた。
「だから今度は、こっちが返す番だ」
数日後。
キーツの国へ小さな通信機器が運び込まれた。
検閲を避けるための装置。
国外へ映像を送るための端末。
暗号化された連絡網。
武器ではない。
情報だった。
そのころキーツは外交で忙しかった。
近隣大国のオウと会談する。
巨大な宮殿。
広い机。
キーツの椅子だけが、わずかに低かった。
「国境問題についてですが」
キーツが資料を出す。
オウは目もくれない。
「いいから認めろ」
「ですが国内では反発が」
「知ったことか」
オウは優雅に茶を飲んだ。
「ふん、やつらがどれほどたかろうとも、私の国家には手を出せない。」
キーツは黙った。
帰国すると、弱腰外交と批判された。
ならば別の大国へ接近しようとした。
キタノクニへ使者を送る。
返答は迅速でかつ短かった。
「弱り切ったやつの相手をしている暇などない。」
味方だと思っていた国はいなかった。
キョウソは守ってくれなかった。
オウは利用する。
キタノクニは笑う。
国内では抗議集会が増えている。
その夜、キーツは鏡の前で人工の脚を見ていた。
膝の裏に細い黒ずみがある。
指で押す。
戻らない。
「……なんやこれ」
誰にも言わなかった。
いや、言えなかったのだ。




