第四話 門の前
タヌアはキーツが嫌いだった。
同類だと思われたくない。
ただしそんなことはおくびにもださない。
キーツにはないタヌアの狡猾さだった。
自治都市の迎賓館。
窓の外には、デズ社が建設中の巨大な公共施設が見える。
予算は当初の三倍になっていた。
完成は二年遅れている。
それでも契約は更新された。
「キーツには品がない」
タヌアはグラスを傾けた。
取り巻きが笑う。
「成り上がりですから」
「学もありませんわ」
「わたしは少なくとも語学はできる。
門前で待ち伏せしていただけの使い走りとは違うのだ。」
それでも相互関係は必要だった。
翌日の新聞は、タヌアの話題を大きく取り上げた。
街角の食堂で二人の市民が記事を読んでいる。
「タヌアって学院にいたんだって?」
一人が言った。
もう一人がスープをすすった。
「まあ外国で学院にいたって言っても、ただの見学者なんだけどね。」
新聞をめくる。
裏面には、デズ社による政治資金提供の記事が小さく載っていた。
「キバク(献金)がよほどほしいらしい。」
二人は笑った。
それで終われば、ただの笑い話だった。
だが笑えなくなったのは、その冬からだった。
自治都市の水道事業。
道路整備。
学校建設。
福祉施設。
契約先に同じ企業名が並び始めた。
デズ。
デズ。
デズ。
多額の資金が消えた。
責任者は不起訴になった。
告発した役人が職を失った。
そして、その処理を認めた中央政府の書類にはキーツの署名があった。
同じころ国境では、見慣れない集団が列を作っていた。
ムクルと呼ばれる人々だった。
自分たちの国家を持たず、各地を流浪している。
移住そのものが問題だったわけではない。
問題は、誰が彼らを運んできたのかだった。
宗教団体の車両。
宗教団体の宿舎。
宗教団体の斡旋業者。
その一つ一つが、後になってキョウソへつながった。
市場で店を壊した男が捕まった。
翌日には釈放された。
農地へ無断で住み着いた集団が追い払われた。
数日後、土地の所有者のほうが逮捕された。
取材に来た記者がムクルの男へ尋ねた。
「法律を守るつもりはないんですか」
男は笑った。
「なにをしたってあげられるこたあねえ。やりたい放題だ。」
映像はそのまま、国中へ流れた。
翌朝には削除されていた。
しかし遅かった。
誰かが保存していた。
誰かが複製していた。
誰かが外国へ送っていた。
小さな映像の欠片が、初めて国境を越えた。




