第三話 上へ
政治家になったキーツのことを、
人々は最初はおもしろがった。
傲慢にも聞こえる話し方。
うさんくさい学歴。
名門の出でもない。
しかし恐ろしいほど進出が早かった。
昨日まで誰も知らなかった若い女が、数年で議席を得た。
さらに数年で党の要職についた。
「庶民出身」
新聞はそう書いた。
「既得権益を壊す女」
支持者はそう呼んだ。
誰もその後ろの巨大な宗教組織の存在を知らなかった。
いや、正確には知っている者もいた。
だが、口を閉じていた。
ある夜。
司法機関の最上階で、シンパンカンは電話を受けていた。
「んで、今度はだれを?」
机の上には未処理の事件記録が山積みになっている。
企業献金。
違法送金。
選挙買収。
公金流用。
どれも証拠は揃っている。
電話の相手が名前を告げる。
シンパンカンは書類を一枚抜いた。
「ああ、これね」
赤い判を押す。
不起訴。
「理由?」
相手が何か言っているようだ。
シンパンカンは笑いとばした。
「いらんいらん。理由なんか後で作る」
その手はもう次の書類に伸びていた。
なにしろ処理案件が山積みなのだ。
翌朝、その事件は証拠不十分として処理された。
誰になにを言われるでもなく
事件はそのまま忘れ去られた。
同じころ。
キーツは首相官邸の階段を上っていた。
左右には報道陣の壁。
閃光が瞬く。
「首相、おめでとうございます!」
「国民へ一言!」
キーツは振り返った。
見下ろす。
階段の下に人々がいる。
記者。
官僚。
政治家。
警備員。
全部、自分より下にいる。
この景色が見たかった。
市場の裏にいたころから、ずっと。
少し離れた場所で、コクドが立っていた。
いつもの無表情だった。
キーツが集まった人々に手を振る。
大きな歓声が沸いた。
その夜、キョウソから通信が入った。
祝福の言葉ではない。
「いったいなにをしている!」
キーツは眉をひそめた。
「なんやねん、いきなり」
「各地で違反分子が台頭しているではないか」
キョウソの顔が画面いっぱいに映る。
「せっかく組織をとりわけてやったのに、この無能が!」
キーツの顔から定番の笑顔が消えた。
(そんなこと頼んだ覚えはないわい おかげでこんな体になったんや)
口には出さなかった。
出せなかった。
代わりに机の下で拳を握った。
「すぐ処理するわ」
通信が切れる。
しばらくして、秘書が部屋へ入ってきた。
「首相」
「なんや」
「地方都市で抗議集会です」
「何人」
「二百ほど」
キーツは鼻で笑った。
「ほっとけ」
二週間後。
二百人は二千人になった。
一か月後。
二千人は二万人になっていた。




