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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
82/150

第82話「二日目の朝」

朝の光が、窓から差し込んできた。

エレナは目を覚ました。

隣に、ルシアンがいた。

眠っていた。黒い髪が枕に広がり、いつもの張り詰めた表情が消えている。穏やかな顔で、静かに息をしていた。

(眠れた、ということは——良かった)

エレナはその顔を、しばらく見た。

見飽きない、と思った。いつも思う。

ルシアンの目が開いた。エレナを見て、目を細めた。

「おはよう」

「……おはようございます」

「眠れたか」

「はい。あなたは?」

「よく眠れた」

「草薬茶より効きましたか」

「……比べるな」

エレナは笑った。

ルシアンが、エレナの髪を梳いた。

「今日は?」

「ベルタさんに挨拶に行きます。引き継ぎを——」

「午後には済ませられるか」

「……はい、おそらく」

「では、午前中は——ここにいろ」

エレナは少し驚いた。

「珍しいですね。仕事を後回しにするなんて」

「今日だけだ」

「……分かりました」

二人は朝の光の中で、しばらく川の音を聞いていた。

女将が朝食を持ってきた。素朴なパンと、温かいスープと、チーズ。

二人で食べた。

ルシアンが、パンを一口食べた。

「……悪くない」

「食堂で食べたシチューと同じくらい美味しいですか」

「あれより素朴だが、温かい」

「同じことを言っていますね、いつも。悪くない、って」

「それ以外の言葉が出てこない」

「美味しい、と言えばいいんです」

「……美味しい」

エレナは笑った。

ルシアンが、エレナを見た。

「笑うな」

「嬉しいので」

「何が」

「ちゃんと言えたから」

ルシアンが、少し困った顔をした。そしてそれが——エレナには、何より愛しかった。

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