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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
80/150

第80話「再会」

夕方の光が、宿屋の窓から差し込んでいた。

扉が開く音がした。

エレナが帰ってきた。

草薬の入った布袋を持ち、外套に冬の冷気を纏って、宿の玄関を入ってきた。

そこで——立ち止まった。

ロビーに、人影があった。

黒い外套、黒い髪——フードを外した顔を見た瞬間、エレナは息を止めた。

「…………ルシアン」

「見つけた」

低い声だった。怒っているのか、安堵しているのか——どちらとも判断がつかない声だった。

エレナはしばらく動けなかった。

「……どうして、ここが」

「お前がどこを選ぶか、分かっていた」

「そんなはずは——」

「川のある、静かな場所。薬草師が働いている町。一人でも生きていける場所。お前の考え方は知っている」

エレナは布袋を持ったまま、その場に立っていた。

「……帰ってください」

「帰らない」

「婚約の話が——」

「断った」

エレナが、止まった。

「……え」

「セルディアへの返答は断った。兄上にも伝えた」

「でも、国の利益が——」

「エレナ」

ルシアンが一歩近づいた。

「お前がいない国の利益など、私には意味がない」

エレナの目に、涙が滲んだ。

「それは……」

「国のために婚約しろと言われた。でも——私がこの一年で学んだことは、そういうことではなかった」

「どういうことですか」

ルシアンがエレナの前に立った。

「人間として生きること。お前が教えてくれたことだ。国のために感情を捨てることが正しいなら——私はお前に会う前の、あの冷たい人間に戻るだけだ」

エレナは、涙が一粒こぼれるのを止められなかった。

「泣くな」

「泣いていません」

「目から水が出ている」

「それは……」

「エレナ」

「はい」

「帰るぞ」

エレナは少し間を置いた。

「……でも、陛下が」

「兄上とは、私が話す。お前が心配することではない」

「私のせいで、国が——」

「お前のせいではない。私の選択だ」

ルシアンがエレナの手を取った。

「私がここに来たのも、私の選択だ。誰にも言われていない」

エレナは、その手の温もりを感じた。

二日間、ずっと——この温もりのないところにいた。

「……すぐには、帰れません」

「なぜ」

「ベルタさんに、引き継ぎをしなければ。急に辞めるのは——」

「明日でいいか」

「……はい」

「では今夜は——」

ルシアンがエレナを見た。

「ここに泊まる」

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