第79話「追跡」
ルシアンはその夜から、エレナを探し始めた。
王都を出たことは分かった。方向と手段——馬車を使ったこと、単身で出たことも、すぐに把握した。
問題は、どこへ向かったか、だ。
コルヴィン村ではないだろう。エレナは一度、あの村に戻らないと言っていた。では王都から離れた別の場所——知り合いのいない、静かな場所。
エレナがどんな場所を選ぶか、ルシアンには分かっていた。
小さな川のある、静かな町。農村に近いが、仕事が見つかりやすい場所。
地図を広げて、王都から馬車で一日から三日の距離の町を調べた。
フェルン町。
川沿いの小さな町で、薬草師が多いことで知られている。エレナの薬草の知識があれば、仕事が見つかりやすい。
「フェルン町に行く」
近衛兵には最低限の人数だけ連れて行くことにした。目立たないように。
「殿下、お一人でよろしいんですか」
「二人でいい。目立ちたくない」
翌朝、ルシアンは出発した。
馬車ではなく、馬で行くことにした。馬車より速い。
二日かけてフェルン町に着いた。
川沿いの小さな町。橋を中心に、商店と民家が並んでいる。
ルシアンは外套のフードを深くかぶり、町を歩いた。
宿屋が三軒あった。
最初の一軒は違った。二軒目——「霧橋亭」の女将に、エレナの特徴を伝えた。
「黒髪で、目が深い色をしていて、背はあまり高くない。一人で来たはずで、最近来た宿泊客で——」
「いますよ」
女将があっさりと言った。
ルシアンは少し間を置いた。
「部屋は」
「二階の奥です。今は薬草師のベルタさんのところに仕事に行っています。夕方には戻ります」
「……夕方まで、部屋を借りたい」
「どうぞ」
ルシアンは一階の空き部屋を借りた。
夕方まで、待った。




