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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
78/150

第78話「ルシアンの怒り」

エレナが王都を去った日、ルシアンは一日中書類に追われていた。

夕方、アグネスが執務室に来た。

「殿下、エレナさんからお手紙です」

「手紙? 直接来ないのか」

「今日、王都を発ちました」

ルシアンが手を止めた。

「……何だと」

「朝、辞表を提出されて——今朝、王宮を出られました」

ルシアンは手紙を受け取った。

開くと、短い文が書かれていた。

『ルシアン様。あなたのことが好きです。ずっと好きでした。でも——あなたには、この国と向き合うべきことがある。私がそばにいることで、あなたの選択が狭まるなら、私は離れます。幸せでいてください。エレナ』

部屋に沈黙が落ちた。

ルシアンは手紙を二度、三度読んだ。

「……アグネス」

「はい」

「どこへ行った」

「存じません。教えていただけなかったので」

「誰かが関与しているはずだ」

アグネスが少し間を置いた。

「……殿下、国王陛下がエレナさんをお呼びになったことは」

ルシアンの目が、鋭くなった。

「兄上が?」

「三日前に謁見があったと、記録にございます」

ルシアンは立ち上がった。

「兄上のところへ行く」

「殿下——」

「止めるな」

国王の部屋に向かう廊下を、ルシアンは早足で歩いた。扉を叩き、入る許可も待たずに開けた。

国王が振り返った。

「ルシアン——」

「エレナに、何を言った」

国王が、静かに答えた。

「……静かに離れるよう、頼んだ」

「なぜ」

「セルディアとの婚約のためだ。お前が揺れているから」

ルシアンの目に、これまで見たことのない怒りが燃えた。

「私が揺れていたのは——エレナを失いたくなかったからだ。婚約を受けるつもりはない」

「ルシアン——」

「エレナはどこへ行った」

「知らない。行き先は教えてもらっていない」

ルシアンは、しばらく国王を見ていた。

「……セルディアへの返答は、断る。それだけは伝えてくれ」

それだけ言って、部屋を出た。

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