第77話「フェルン町」
フェルン町に着いたのは、二日後の昼過ぎだった。
川沿いの小さな町で、橋を中心に商店と民家が並んでいた。活気はあるが静かで、よそ者を特別に珍しがらない雰囲気がある。
エレナは町の中心にある宿屋に部屋を取った。
「霧橋亭」という名前の、石造りの宿だ。コルヴィン村のヘルガの宿より少し大きい。女将は五十代の穏やかな女性で、エレナを見て何も余計なことを聞かなかった。
「長くお泊まりになりますか」
「しばらく、お世話になるかもしれません」
「ご飯は朝と夜、ついています。洗濯は自分でされるなら、裏に洗い場があります」
「ありがとうございます」
部屋は狭かったが、窓から川が見えた。
エレナは荷物を置き、窓を開けた。
冬の川の音が聞こえてくる。水が流れる音。それだけが、今のエレナには心地よかった。
翌日から、エレナは仕事を探した。
宿屋での経験と、草薬の知識——それを使える仕事を探した。町の薬草師が助手を探していると聞いて、訪ねていった。
「前にも薬草の仕事をしていたんですか」
六十代の薬草師、ベルタ老婆が聞いた。
「王都で少し。それ以前は、コルヴィン村にいました」
「コルヴィンか。遠くから来たね」
「はい」
「訳ありそうな顔をしているが——そこは聞かないよ。仕事ができれば、それでいい」
「ありがとうございます」
仕事が決まった。
午前中に薬草師の助手として働き、午後は宿に戻る。そういう生活が始まった。
コルヴィン村の頃に似ていたが——あの頃とは違う静けさがあった。
あの頃は出口を探していた。今は——出口の先で、立ち止まっている。
夜、エレナは部屋で一人、窓から川を見た。
ルシアンは今頃、手紙を読んでいるだろうか。
読んで——どう思うだろうか。
(怒るかもしれない。悲しむかもしれない。あるいは——国のために、と納得するかもしれない)
どれが正解か、エレナには分からなかった。




