表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒薔薇の檻  作者: 麗夜
57/150

第57話「グレインとの対面」

八月の半ば、グレイン・ロスタンが正式に王宮を訪れた。

エレナは廊下でその男を見た。

三十代前半、背が高く、父親のロスタン公爵より線が細い。整った顔だが、目の奥に何か計算高いものが見える。

「あなたがエレナ・コールですね」

グレインがエレナに声をかけた。廊下で、近衛兵も傍にいる状況だった。

「はい」

「噂通り、度胸がある」

「お褒めの言葉、ありがとうございます」

グレインが少し笑った。

「褒めたつもりはないんですが、そう返しますか」

「好意的に受け取る習慣があるので」

「面白い。父が手こずったのも分かる気がします」

エレナはグレインを見た。父のロスタン公爵とは、確かに雰囲気が違う。公爵は重厚で計算高かったが、グレインは軽快で——それが逆に読みにくい。

「一つ伺っていいですか」

エレナが言った。

「どうぞ」

「なぜ称号の手続きを問題にしているんですか。それが本当の目的ではないと思っているので」

グレインが少し目を細めた。

「直接ですね」

「遠回しにしても時間の無駄なので」

「……では、直接答えましょう」

グレインが一歩近づいた。エレナは下がらなかった。

「殿下が変わりすぎた。それが、私の懸念です」

「変わったことが、問題なんですか」

「変わること自体ではない。変わった原因が——一人の女性への感情だということが、問題です」

「感情は、判断の妨げになると?」

「なり得ます」

「あなたは、感情のない政治の方が良いと思っているんですか」

グレインが少し間を置いた。

「感情のない政治など、存在しない。ただ——感情が前に出すぎれば、判断が歪む」

「では、この一年でルシアン殿下の判断が歪んだ例を、一つ挙げていただけますか」

グレインが止まった。

エレナは続けた。

「公爵の偽造文書を未然に防いだのも、ガルデニアとの連携を明らかにしたのも——全部、殿下の判断があってのことです。感情が歪めた判断なら、あれらは起きていない」

グレインはしばらく黙っていた。

「……なるほど。では、聞き方を変えましょう」

「どうぞ」

「あなた自身は——自分が殿下の弱点になり得ると、思っていますか」

エレナは少し間を置いた。

「思っています」

「では——」

「だから、弱点にならないよう努力しています。毎日」

グレインはエレナを見た。

しばらく沈黙が続いた。

「……想像より、ずっと難しい相手だ」

グレインが言った。それは批判ではなかった。どちらかというと——評価だった。

「失礼します」

エレナは一礼して、その場を離れた。

廊下を歩きながら、エレナは自分の心臓が速く打っているのを感じた。

表では平静を保ったが——内心では、ずっと緊張していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ