第46話「三月の嵐」
三月の半ば、評議会が最終的な結論を出した。
ロスタン公爵の、王宮への立入制限と、主要な役職からの解任。
外国との連携による王弟排除の企て——それが正式に認定されたわけではないが、「王宮の秩序を乱した」という理由で、実質的な失脚となった。
宮廷が静かにざわめいた。
これまで公爵についていた貴族たちが、一斉に距離を取り始めた。政治的な流れが変わるとき、人はこんなにも素早く動くのか——エレナは冷静にその様子を見ていた。
ルシアンの表情は、変わらなかった。
勝利を喜ぶ様子もなく、安堵する様子もなく——ただ、次の仕事に向かう。それがこの男のやり方だ。
「嬉しくないんですか」
エレナが聞いた。
「嬉しい、という感情が適切かどうか分からない」
「公爵の問題が片付いたのに?」
「片付いたわけではない。公爵は失脚したが、問題の根は残っている。身分制度、外交上の課題、宮廷内の権力構造——それらは変わっていない」
「一つ一つ、ですね」
「そうだ」
エレナは少し考えた。
「では、今夜だけは喜んでください」
「なぜ」
「一つの山を越えたから。次の山の話は、明日からで十分です」
ルシアンがエレナを見た。
「……お前は、そういう区切りをつけるのが得意だな」
「宿屋で働いていた頃、一日の終わりに今日の疲れを明日に持ち越さないようにしていたので。身についた習慣です」
「農家育ちの知恵が、また出た」
「笑っていいですよ」
ルシアンが、低く笑った。
その夜、二人は執務室でいつもより遅くまで過ごした。
書類の整理が終わってから、ルシアンが珍しく本を取り出した。
「読むか」
「はい」
二人は並んで、それぞれの本を読んだ。
深夜近くなって、ルシアンが本を閉じた。
「エレナ」
「はい」
「春になったら——お前に話したいことがある」
「今は話せませんか」
「準備が必要なことだ」
エレナは少し考えた。
「……分かりました。春を待ちます」
ルシアンがエレナの手に自分の手を重ねた。
何も言わなかったが、その手の温もりが——全てを語っていた。




