↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒薔薇の檻  作者: 麗夜
PR
45/150

第45話「春の予感」

三月になり、雪が解け始めた。

庭の雪だるまは、とっくに溶けていた。でもエレナはその場所を、時々通るときに見た。何もなくなった石畳の上を。

春が来ていた。

王宮の庭に、最初の花が咲き始めた。白い小さな花が、まだ枯れた枝の間から顔を出している。

エレナは毎朝の散歩で、その変化を楽しんだ。

公爵の件は、まだ完全には解決していなかった。処分の最終的な決定は、まだ出ていない。でも公爵の動きは止まっていて、王宮の空気は以前より落ち着いていた。

マリアが、エレナに話しかけてくるようになった。

廊下ですれ違いざまに、短い言葉を交わす。最初は業務の確認だけだったが、だんだんと雑談が混じるようになった。

「公爵の件、あなたが動いたんですね」

マリアが言った。

「色々な人が動きました」

「でも、最初の糸口を作ったのはあなたでしょう。ガロン商人への接触」

「どこで知ったんですか」

「宮廷は狭いので」

エレナは少し笑った。

「マリアさんは、どうしていましたか。あの頃」

「……私は、何もできませんでした」

マリアが少し俯いた。

「殿下を守りたいと思いながら、何も。あなたは動いていたのに」

「私の方が、失うものが少なかっただけです。あなたは長くここにいて、立場があって——それを守りながら動くのは難しい」

「言い訳にしていたかもしれません」

エレナはマリアを見た。

「遅くありません。これからできることがあれば、すればいいだけです」

マリアが顔を上げた。

「……あなたは、なぜ私にそんなに優しいんですか。嫌がらせをした私に」

「同じ場所で働いているから。それだけです」

マリアはしばらく黙っていた。

「……殿下を、よろしくお願いします」

それだけ言って、去っていった。

その言葉を、エレナは静かに受け取った。

恋心の諦めと、それでも残る大切さ——その両方が、マリアの言葉に込められていた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。