第41話「包囲網」
二月に入った。
公爵の動きが、目に見えて活発になった。
評議会への働きかけ、貴族たちへの根回し、証言書の提出——それらに加えて、今度は王都の有力商人たちを取り込もうとしているという情報が入ってきた。経済的な圧力を使い、国王の判断に影響を与えようとしているらしい。
ルシアンはその全てを把握しながら、静かに対応を進めていた。
エレナは毎晩、執務室でルシアンの傍らで書類の整理を続けた。
「公爵の動きを整理しました」
エレナが手書きのまとめを差し出した。
書類から読み取った情報を時系列に並べ、関係する人物を整理したものだ。エレナなりの分析を書き添えてある。
ルシアンがそれを読んだ。少し間を置いた。
「……お前が作ったのか」
「書類を整理していたら、流れが見えてきたので。間違いがあれば教えてください」
「間違いはない。むしろ——私が気づいていなかった点がある」
「どこですか」
ルシアンが紙を指した。
「公爵が接触している商人の一人——ガロン・ベックは、ガルデニアとも取引がある。つまり公爵は、ガルデニアと連携している可能性がある」
エレナは少し驚いた。
「それは——政略婚を断られたガルデニアが、公爵を使ってルシアンを排除しようとしている?」
「可能性がある」
「外国が絡んでいるなら、国内の問題だけではなくなりますね」
「そうだ。しかし逆に言えば——外国が関与していることを証明できれば、公爵の行動は国家反逆に近くなる」
エレナはしばらく考えた。
「それを証明するには、ガロン・ベックに接触する必要がありますか」
「そうなる」
「……私が行きましょうか」
ルシアンが顔を上げた。
「なぜお前が」
「公爵の側近たちは、あなたや王宮の官吏が近づけば警戒します。でも私なら——ただの侍女が市場に買い物に来た、という形で近づける」
「危険だ」
「リーナを連れて行きます。二人なら自然に見える」
ルシアンはしばらく黙っていた。
「……許可はしない」
「では、勝手に行きます」
「お前は——」
「でも報告はちゃんとします。終わった後で」
ルシアンが、困ったような顔をした。珍しい顔だった。
「……一人で行くな。護衛を一人つける。目立たない格好の」
「ありがとうございます」
エレナが笑うと、ルシアンが目を細めた。
「なぜ笑う」
「許可してくれると思っていたので」
「……最初から分かっていたのか」
「あなたは、理に適ったことを止めません。私が行くのは理に適っている」
ルシアンは返事をしなかった。でもその口元が、わずかに緩んでいた。




