第39話「新年と誓い」
新年が来た。
ヴァルドラ王国では、新年の朝に王宮で小さな式典がある。残っている貴族と官吏、侍女たちが集まり、国王が短い言葉を述べる。それだけの簡素な式典だが、王宮の人間にとっては年始の大切な行事だ。
エレナは侍女として式典に参加した。
国王が壇上に立った。
「今年も、この国が豊かであることを願う。そして——この宮廷にいる全ての者が、誠実であることを願う」
短い言葉だった。でもエレナには、その「誠実」という言葉が、特別な重さを持って聞こえた。
式典が終わって、人が散らばり始めた頃、エレナはルシアンに声をかけられた。
「庭に来い」
早朝の庭は、薄く雪が積もっていた。昨夜から降り始めた雪だ。シロヴェーラの木が白く覆われて、枝が重そうにしている。
「新年に、言いたいことがある」
ルシアンが言った。
エレナは待った。
「公爵の件は、まだ終わっていない。今年、さらに動いてくる可能性がある。お前への危険が増すかもしれない」
「分かっています」
「それでも——私の隣にいるか」
エレナはルシアンを見た。その目が、真剣だった。問いかけではなく、確認のような目だ。
「います」
「根拠は」
「あなたが隣にいてくれるから。それで十分です」
ルシアンがエレナの手を取った。雪が降る庭の中で、二人は向かい合っていた。
「エレナ」
「はい」
「今年中に——お前の立場を変える。正式に、私の隣に置けるよう、準備を進める」
エレナは息を止めた。
「それは……」
「身分の問題は、私が解決する。時間はかかるかもしれない。でも——諦めるつもりはない」
「私のために、そこまで」
「お前のためだけではない。私のためだ」
ルシアンが、エレナの手を強く握った。
「一人でいることに、もう慣れたくない。お前のそばにいることに——慣れてしまった。今更、手放せない」
エレナの目に、涙が浮かんだ。
「……泣くな」
「泣いていません」
「目が光っている」
「雪が眩しいだけです」
ルシアンが、珍しく低く笑った。
エレナも笑った。
雪の中で、二人は手を繋いだまま、しばらく立っていた。
新しい一年が、始まった。




