第37話「クリスマスの夜会」
十二月の中頃、王宮で冬の夜会が開かれた。
年に一度の大きな行事で、国内の主要な貴族が集まる。エレナは侍女として夜会の準備と運営に携わることになっていた。
夜会の準備は大変だった。
会場の飾り付け、料理の手配、来客リストの管理、貴族たちの席次の確認——全員が慌ただしく動き回り、エレナも例外ではなかった。
でも準備をしながら、エレナはその華やかさに純粋に驚いていた。
コルヴィン村では、年に一度の祭りが一番大きな行事だった。村人が広場に集まり、食べ物を持ち寄り、音楽を演奏する——それが、エレナの知っていた「宴」だ。
王宮の夜会は、別次元だった。
大広間に並べられた長いテーブル。山のように積まれた料理。シャンデリアの下で揺れる貴族たちのドレスや宝石。演奏される音楽の質が、コルヴィン村の祭りとは比べものにならない。
「エレナさん、口が開いてますよ」
リーナにそっと言われて、エレナは気づいて口を閉じた。
夜会の最中、エレナは主に来客の誘導と給仕の確認を担当した。
ルシアンは当然、夜会に出席していた。黒い正装に、肩章がついている。普段の執務服より、より格式の高い装いだ。
遠くから見ると、やはり目立った。
背の高さ、立ち姿の美しさ、そして周囲から一歩引いたような立ち位置——貴族たちの中に混じっていても、ルシアンは一人だけ別の空気を纏っていた。
エレナは仕事をしながら、時々その姿を目で追った。
気をつけなければならない、と思いながら——目が自然に向いてしまった。
夜会の終わり頃、ルシアンがエレナの傍を通りかかった。
すれ違いざまに、低い声で言った。
「後で来い」
それだけだった。
侍女としての礼をしながら、エレナは頷いた。
夜会が終わり、後片付けを済ませてから、エレナはルシアンの執務室に向かった。
「疲れたか」
ルシアンが聞いた。
「少し。でも楽しかったです。初めて夜会を見ました」
「どうだった」
「綺麗でした。でも——遠い世界だと思いました」
「今はお前もあの場にいた」
「侍女として、ですが」
ルシアンが少し間を置いた。
「来年は——別の立場で、あの場に立てるかもしれない」
エレナは、その言葉の意味を考えた。
「……どういう意味ですか」
「今すぐ答えが出ることではない。ただ——私は考えている」
エレナはルシアンを見た。その目が、真剣だった。
何かを、準備している。そういう目だった。
エレナは何も聞かなかった。今夜は、ただそばにいることで十分だと思った。




