第36話「冬の入り口」
十二月に入り、王都に最初の雪が降った。
夜中から降り始めて、朝起きたときには王宮の庭が薄白く覆われていた。エレナは窓から外を見て、思わず笑顔になった。
「雪だ」
誰かに言いたくて、でも部屋には誰もいなかった。
朝の庭の散歩は、雪のせいで足元が悪くなっていた。それでもエレナは出た。雪の積もった庭は、見慣れた景色を全く違うものに変えていた。枯れた枝の上に白い雪が乗り、庭の端の石畳が細い白い線で縁取られている。
足跡をつけながら歩いていると、後ろから足音がした。
振り返ると、ルシアンだった。
「覚えていたんですか」
エレナが言った。
「何を」
「雪だるまを作ると言ったこと」
ルシアンが少し間を置いた。
「……覚えていた」
「では、やりましょう」
「今すぐか」
「雪は今日しかないかもしれません」
ルシアンが庭を見渡した。誰もいない。早朝の庭は、二人だけの空間だった。
エレナは積もった雪を両手で掬って、丸め始めた。
「こうして……転がして……大きくします」
雪玉を転がすと、雪がついて大きくなっていく。エレナはそれを繰り返した。ルシアンは最初、ただ見ていた。
「手伝ってください」
「どうすればいい」
「一緒に転がすんです。こっちを持って」
ルシアンがエレナの隣にしゃがんだ。二人で雪玉を転がす。石畳の上を転がっていく雪玉が、どんどん大きくなっていった。
「大きくなりましたね」
エレナが振り返ると、ルシアンが雪玉を見ていた。その顔に、普段は見られない集中した表情があった。子どもが何かに夢中になるときの顔だ、とエレナは思った。
「次に、小さい球を作って上に乗せます」
「乗る?」
「乗ります。落ちやすいので、慎重に」
二人で小さな球を作り、大きい球の上にそっと乗せた。
「顔を作ります。石はありますか」
ルシアンが庭の端に行って、小石を拾ってきた。
エレナはその石で目と口を作った。
二人で後ろに下がって、出来上がったものを見た。
不格好な雪だるまだった。頭が少し大きすぎる。目の石が左右でサイズが違う。口が少し傾いている。
「……下手だな」
ルシアンが言った。
「初めてなので」
「お前は慣れているんじゃないのか」
「子どもの頃にやっていたんですが、忘れました」
ルシアンが不格好な雪だるまを見ていた。その横顔に——エレナが今まで見た中で、一番穏やかな表情があった。
「……悪くない」
「本当ですか」
「初めて作ったものにしては」
エレナは雪だるまを見た。それから、ルシアンを見た。
「来年も作りましょう」
「来年も?」
「もっと上手になります。毎年やれば」
ルシアンがエレナを見た。
来年も、ここにいる——そういう前提で話しているエレナを見て、その目に何かが灯った。
「……そうだな」
短い返事だったが、エレナには十分だった。




