表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒薔薇の檻  作者: 麗夜
27/150

第27話「マリアの告白」

ある日の夕方、マリアがエレナを呼んだ。

二人きりで話したい、と言った。エレナは少し驚いたが、断る理由もなかった。

連れて行かれたのは、王宮の西側にある小さな礼拝堂だった。普段はあまり使われていない部屋で、石造りの静かな空間だ。夕日が細長い窓から差し込んで、床に金色の縞模様を作っている。

「……嫌がらせをして、ごめんなさい」

マリアが言った。

エレナは少し驚いた。謝罪を予想していなかった。

「書類を隠したこと、報告を歪めたこと——全部、私がやりました。他の侍女を巻き込んだことも」

「……分かっていました」

「怒っていますか」

エレナは少し考えた。

「怒っていないと言えば嘘になります。でも今は、それより——あなたが疲れていないか、の方が気になります」

マリアが顔を上げた。

「なぜ、私のことを」

「ずっと戦い続けていたでしょう。私に対して。殿下に対して。宮廷に対して。疲れないはずがない」

マリアの目が、わずかに揺れた。

「……殿下のことが好きでした。十年前から」

「知っています」

「どうせ相手にされないと分かっていても、そばにいたかった。だからこの宮廷に残り続けた。でも——あなたが来てから、全部が変わった。殿下が変わった。私ではなく、あなたを見るようになった」

マリアの声が、少し震えた。

「悔しかった。あなたが何をしたわけでもないのに——ただそこにいるだけで、殿下が変わっていく。それが、憎かった」

「……ごめんなさい」

エレナは言った。

「私は、あなたの気持ちを考えずにここに来た」

「謝らなくていいです、あなたが謝ることじゃない」

マリアが首を振った。

「ただ——一つだけ聞かせてください。あなたは本当に、殿下を好きですか。利用しているわけじゃなくて」

「本当に好きです」

エレナは真剣な目で言った。

「出世したいわけでも、権力が欲しいわけでもない。ただ——あの人のそばにいたい。それだけです」

マリアはしばらくエレナを見ていた。

「……分かりました」

立ち上がり、礼拝堂を出る前に振り返った。

「ロスタン公爵が、あなたのことを調べています。エレナさんの過去、出自、借金の理由——全部。気をつけてください」

それだけ言って、マリアは去った。

エレナは一人、礼拝堂に残った。

夕日が沈んでいく。金色の縞模様が、床から消えていく。

(公爵が、私を調べている)

ルシアンに話さなければ。

でも同時に——マリアが警告してくれたことに、エレナは胸が温かくなった。憎しみから、一歩進んだ何かを、その目に感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ