第21話「朝の秘密」
朝の光が、ルシアンの部屋に差し込んできた。
エレナは目を覚ましたとき、最初の数秒、自分がどこにいるのか分からなかった。見慣れない天井。自分の部屋より高い天井。蝋燭立ての影が、白い壁に長く伸びている。
それから、隣の温もりに気づいた。
ルシアンの腕が、エレナの肩に回ったままだった。
エレナはゆっくりと体を起こした。ルシアンはまだ眠っていた。黒い髪が枕に広がり、いつもの張り詰めた表情が消えて、ただ静かに息をしている。
こんな顔をするんだ、とエレナは思った。
昼間のルシアンは常に何かを計算しているような、どこかに意識の一部を残しているような顔をしている。でも今は——本当に、ただ眠っているだけの、一人の人間の顔だ。
エレナは音を立てないように床に下りた。
服を整えながら、頭の中で状況を整理する。
今は夜明け直後。他の侍女たちが動き出す前に、自分の部屋に戻らなければならない。誰かに見られれば——どういう話になるか、想像がつく。
「どこへ行く」
低い声がした。
振り返ると、ルシアンが目を開けてエレナを見ていた。
「部屋に戻ります。誰かに見られる前に」
「構わない」
「構います」
エレナはきっぱりと言った。
「私の評判が落ちるのは構いません。でも——あなたに不必要な話が広まるのは困る。政略婚を断った直後に、侍女と関係を持ったと知れ渡れば、宮廷がどう動くか」
ルシアンが起き上がった。エレナを見る目が、少し複雑だった。
「お前は、自分のことより私の立場を心配するのか」
「両方心配しています。でも今は、あなたの方が優先です」
「なぜ」
「好きだから」
あっさりと言った。言ってから少し恥ずかしくなったが、撤回する必要はなかった。事実だ。
ルシアンはしばらく黙っていた。
「……戻れ。だが」
「だが?」
「今夜、また来い」
エレナは一瞬止まった。それから、小さく笑った。
「考えます」
扉を細く開けて、廊下を確認した。誰もいない。エレナは音を立てずに廊下に出て、自分の部屋へ急いだ。
廊下を歩きながら、エレナは自分の顔が緩んでいることに気づいた。
こんな顔をしている場合ではない、と思いながら——止められなかった。




