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第149話「膠着」
皇帝は、その場では何も答えなかった。
宣言を撤回もしなかった。しかし——押し通すことも、しなかった。
それが、今の状況だった。
膠着。
ルシアンは帝国に滞在し続けた。条約交渉という名目で。毎回の訪問期限が来るたびに、延長を申請した。
皇帝は、それを認め続けた。
追い払う、とは言わなかった。
その事実が、ライアンには何かを意味しているように見えた。
「父上は、本当は」
ライアンは皇后に言った。
「本当は——認めたいのかもしれない」
「アルヴィン陛下は、頑固ですが——娘のことを大切に思っています」
「だから、余計に手放せない」
「そうかもしれません。二十五年間、ずっと探し続けていた娘が——戻ってきた途端に、外国の男に持っていかれるような気がして」
「……父親の感情ですね」
「そうです。理屈ではなく、感情の問題」
ライアンは少し考えた。
「ルシアン殿下に、それを伝えようと思います」
「何を?」
「父上が感情で動いているということ。理屈で攻めても、動かない。感情に訴える必要がある」
皇后が、少し笑った。
「あなたも、変わりましたね」
「どういう意味ですか」
「以前は、全て理屈で解決しようとしていた。エレナが来てから——感情の重さを、理解するようになった」
ライアンは少し間を置いた。
「……妹ができたからかもしれません」




