第150話「ルシアンの手紙、二人の夜」
四月の終わり、ルシアンがエレナに手紙を書いた。
今回は——長い手紙だった。
『エレナへ。
今日で帝国に来て三ヶ月が経つ。毎日、庭越しにお前の顔を見ている。それだけで、眠れる。
子どもたちのことを話してくれてありがとう。レインの目の色を、お前が「あなたに似ている」と言ってくれた。それが——何より嬉しかった。
記憶が戻り始めていると聞いた。急がなくていい。全部戻らなくても、お前はお前だ。雪だるまを覚えていてくれた。礼はいらないと言ったら言いますと返すことを、体が覚えていた。それだけで十分だ。
皇帝陛下と、また話した。認めてはもらえなかった。でも——追い払われもしなかった。それを、前進だと思っている。
急がない。焦らない。でも——諦めない。それだけは、変わらない。
今夜の月が綺麗だ。お前の部屋の窓からも、見えているだろうか。同じ月を見ていると思うと、少し近くに感じる。
来月も来る。再来月も来る。何年でも来る。
待っていてくれ。
ルシアン』
エレナはその手紙を、夜遅くに読んだ。
双子が眠っていた。
レインの銀灰色の目が閉じている。ソーンの緑灰色の目が閉じている。
エレナは窓を見た。
月が出ていた。
「……見てますよ」
小さく言った。
「同じ月を、見ています」
手紙を、胸に当てた。
記憶は、まだ全部は戻っていない。
でも——この人が大切だということは、毎日、少しずつ確かになっていく。
「……待っています」
月に向かって、言った。
「何年でも——待っています」
双子が、眠りの中で小さく動いた。
レインがルシアンの目で。ソーンがエレナの目で。
この二人が、いつかルシアンに会える日を——エレナは信じていた。




