第143話「帝国への再訪」
二月、ルシアンが帝国を再訪した。
今回は正式な外交使節団として。条約交渉の名目で。
皇帝は、今回は会った。
「ヴァルドラとの友好条約——我が国にとっても意義があると、聞いています」
「はい。経済的な結びつきと、相互の情報共有——お互いにとって利益になる形を提案したい」
「……ルシアン殿下、一つ確認したい」
「何でしょう」
「今回の訪問は、条約交渉が目的か。それとも——エレナへの接触が目的か」
ルシアンは少し間を置いた。
「両方です」
「正直だな」
「嘘をついても意味がないので」
皇帝が、ルシアンを見た。
「エレナは、帝国の皇女だ」
「知っています」
「お前との関係は、認めていない」
「知っています」
「それでも来たか」
「来ます。何度でも」
皇帝の目が、わずかに動いた。
「……子どもたちに会いたいか」
「はい」
「エレナは記憶がない」
「少しずつ戻っています。手紙で知っています」
「その記憶が全部戻ったとして——エレナが帝国に残ることを選ぶかもしれない」
「……それはエレナが決めることです」
「お前の元に戻らないと分かっても?」
「エレナが決めた選択なら——尊重します。ただ、選択するためには、全部を知らなければならない。記憶が戻るまで、諦めません」
皇帝はしばらく黙っていた。
「……子どもたちには会わせる。ただし、エレナとの接触は制限する」
「それは——」
「今はそれだけだ。条約交渉を進めながら、様子を見る」
ルシアンは、その条件を受け入れた。
今は、それだけでいい。




