第140話「皇帝の宣言」
双子が生まれて三日後、皇帝が宣言した。
「この二人を、ヴェルク帝国の皇族として迎える。ライアンの後継候補として育てる」
応接室に、皇帝、皇后、ライアン、そしてエレナが集まっていた。
「……父上」
ライアンが、珍しく声を荒げた。
「それは——エレナの子どもたちを、帝国に縛ることになります」
「縛るのではない。守ることだ」
「でも——子の父親であるルシアン殿下の意向は」
「ヴァルドラの王弟の意向は、帝国の決定に優先しない」
「父上!」
「この子たちは、帝国の皇女の子だ。帝国の后継ぎとして育てる——それは、この子たちへの最善だ」
エレナは静かに聞いていた。
双子を抱きながら。
「……エレナ、お前はどう思う」
皇帝が、珍しくエレナに聞いた。
エレナは少し間を置いた。
「……子どもたちが幸せであることが、一番大切だと思います」
「では——帝国で育てることを、認めるか」
「この子たちの幸せを、一番に考えます。ただ——」
「ただ?」
「父親のことも、この子たちには知る権利があります」
皇帝が、少し沈黙した。
「ルシアン殿下が父であることは——否定しません。ただ、関係を認めるかどうかは別の問題だ」
エレナは双子を見た。
一人はルシアンの銀灰色の目。もう一人はエレナの緑灰色の目。
「……この子たちが大きくなったとき、自分の父親を知らないままで育てることは——させたくありません」
「それは、追々考える」
「今、決めていただけますか」
皇帝が、エレナを見た。
記憶のない娘が——それでも、芯の強さを持っている。
「……ルシアン殿下には、子の存在を知らせる。それだけは認める」
「ありがとうございます」
でも——それだけだった。
エレナとルシアンの関係を認める言葉は、出なかった。




