第133話「皇帝の命令」
その夜、ルシアンに伝えられた。
「陛下の意向で——殿下の滞在は、明後日までとなりました」
ライアンの従者が伝えた。
ルシアンは静かに聞いた。
「エレナに会える時間は」
「明日、一時間だけ許可されています」
一時間。
「分かった」
その夜、ルシアンは手紙を書いた。
エレナへの手紙だ。これまで書き続けてきた手紙とは違う、今この状況のための手紙。
『エレナへ。記憶がなくても、お前はお前だ。声を聞いて、顔を見て——確信した。何があっても、私はここに来る。どこにいても、何度でも来る。待っていてくれ。必ず、状況を変える。ルシアン』
翌日の面会で、ルシアンはエレナに手紙を渡した。
「読んでくれ」
エレナは受け取り、読んだ。
読み終えて、顔を上げた。
「……何度でも来ると、書いてある」
「本当のことだ」
「でも——皇帝陛下が」
「兄上もいる。帝国の皇帝も、越えられない壁ではない」
「大げさです」
「大げさではない」
エレナは少し間を置いた。
「……私のことを、そこまで」
「そこまでも何も——お前を見つけるために、何ヶ月もかかった。それだけのことをする理由が、あるかどうか分かるだろう」
エレナの目に、涙が浮かんだ。
「……ありがとうございます」
「礼はいらない」
「言います」
ルシアンが、エレナを見た。
「覚えているか、それ」
「何を」
「礼はいらない、と言ったとき、お前はいつも——言います、と返した」
エレナは少し驚いた。
「……そうだったんですか」
「そうだ」
「では——体が覚えていたんですね」
二人は、静かに笑った。
一時間が、あっという間に過ぎた。
ルシアンが去る日、エレナは見送った。
「また来ます」
「……はい」
「待っていてくれ」
「はい」
ルシアンが馬に乗り、去っていった。
エレナはその背中が見えなくなるまで、見送った。




