第132話「皇帝の帰還」
一週間後、帝国の皇帝が外征から戻った。
エレナの父——皇帝アルヴィン・ヴェルクだ。
六十代の大柄な男で、長年国を治めてきた貫禄があった。目が鋭く、声が重く、部屋に入っただけで空気が変わる。
皇帝は帰還してすぐ、エレナのことを聞いた。
「本当に、血の判定が出たのか」
「はい、父上。間違いありません」
ライアンが答えた。
「二十五年間、行方不明だった娘が——今更」
皇帝がエレナを見た。
エレナは一礼した。
「……エレナと申します」
皇帝が、エレナの顔を細かく見た。
妻の顔と、確かに似ていた。目の色も同じだ。
「お前の育ちは」
「覚えていません。記憶がないので」
「子を宿しているとも聞いた」
「……はい」
「誰の子だ」
エレナは少し間を置いた。
「……記憶がないため、確かなことは言えません。ただ——今、ヴァルドラのルシアン殿下が会いに来ています」
「ヴァルドラの王弟」
皇帝の目が、鋭くなった。
「父上」
ライアンが言った。
「まず状況を整理してから、判断をお願いします」
「整理することがあるか。帝国の皇女が、記憶を失い、子を宿し、外国の王族に追われている——これが整理できる状況か」
「落ち着いて話せば——」
「ルシアン殿下を、帝国から追い払え」
「父上!」
「帝国の皇女に、外国の男が関わることは認めない」
エレナは、その言葉を聞いた。
胸の中で、何かが冷えた。




