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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
131/150

第131話「記憶の断片」

記憶のない再会から、三日が経った。

エレナはルシアンと、毎日少しずつ話した。

ライアンが同席することもあった。エレナが疲れれば、すぐに止めた。

ルシアンは急がなかった。

ただ——話した。

エレナが王宮に来た日のこと。最初に目が合った瞬間のこと。夜の問答のこと。黒薔薇の庭のこと。

エレナは聞きながら、胸の奥に何かが積み重なっていく感覚があった。

霧の向こうに、少しずつ輪郭が見えてくるような。

「黒薔薇を、折ってくれたんですか」

エレナが聞いた。

「ああ。棘で指を切ったが」

「それをもらって、ずっと持っていた」

「……そうだ」

「なぜ大切にしていたのか、今は分かりません。でも——手放せなかった理由は、分かる気がします」

ルシアンが、エレナを見た。

「どういう意味だ」

「その花弁を持っているとき——怖くなかった。一人だけど、一人じゃない感じがした。記憶がなくなってからも、ずっとそうでした」

ルシアンの目が、わずかに揺れた。

「……それは」

「あなたが、その花弁に込めた何かが——残っていたのかもしれません」

ルシアンは少し間を置いた。

「お前は——記憶がなくても、お前のままだ」

「どういう意味ですか」

「正直で、真剣で、人の気持ちを受け取る。それは変わっていない」

エレナは、その言葉を静かに受け取った。

記憶がなくても、自分はそのままだ。

その事実が——少し、嬉しかった。

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