第13話「嫉妬という名の嵐」
マリアの嫌がらせは続いていた。
書類を隠す、備品を消す——それは序の口だった。やがてマリアは、他の侍女たちを巻き込み始めた。エレナが執務室に向かうと、廊下で他の侍女たちがひそひそ話をやめて離れていく。食堂でエレナが座ろうとすると、隣の席に荷物が置かれる。
孤立させようとしているのだ、とエレナには分かった。
それでもエレナは毅然としていた。書類は自分で探す。備品がなければ他の場所から調達する。廊下でひそひそ話をする侍女たちには、普通に挨拶をする。無視されても、次の日また挨拶をする。
根負けするのは、相手の方だ、とエレナは思っていた。
ただ一人、リーナという若い侍女だけが違った。
十七歳の、まだあどけなさの残る少女で、マリアの派閥には属していたが、心から同調しているわけではないらしかった。エレナが食堂で一人になっているとき、こっそりと隣に座ってきた。
「……大丈夫ですか、エレナさん」
「大丈夫よ。ありがとう」
「マリア様は、殿下のことが好きなんです」
リーナが小声で言った。
「ずっと前から。だからエレナさんが殿下に特別扱いされているのが、許せないんだと思います」
エレナはその言葉を聞いて、少し考えた。
特別扱い。自分がそう見られているとは思っていなかった。ただ仕事をしているだけだ。
「殿下は、マリアさんのことを?」
「全然、みたいです。それがまた……」
リーナは言葉を濁した。
エレナはその夜、自分の部屋で考えた。
マリアがルシアンを好きだということ。それは理解できる。あの男には、確かに人を引きつける何かがある。冷たいのに、その冷たさの奥に何か深いものを感じさせる。近づきたくなる、触れてみたくなる——そういう磁力がある。
エレナは、自分の考えがそこまで進んでいることに気づいて、頭を振った。
(関係ない。私は仕事をしにここに来ている)
でも胸の中に、小さな引っかかりが残った。
マリアがルシアンを好きだということが——なぜか、少しだけ、気になった。
その事実が気になること自体が、エレナには不都合だった。




