129/150
第129話「ライアンの判断」
その夜、ライアンはエレナの部屋を訪れた。
「話がある」
「はい」
「今日、ヴァルドラからルシアン王弟殿下が来た」
エレナは、その名前を聞いた瞬間——胸が、強く打った。
「……ルシアン、殿下」
「お前を探していた。大切な人だと言っていた」
エレナは少し間を置いた。
「……どんな方でしたか」
「黒髪で、銀灰色の目をした男だ。感情を表に出さないが——お前の安否を聞いたとき、少し目が動いた」
銀灰色の目。
その言葉が——夢の中の声と重なった。
「会いたいですか」
ライアンが聞いた。
エレナは少し考えた。
「……記憶がないまま会っても、相手を傷つけるかもしれません」
「そうかもしれない」
「でも——」
エレナは掌を見た。
黒薔薇の花弁を、いつも握っていた場所。
「会いたいです」
静かに言った。
「記憶がなくても——会いたいと思います」
ライアンは少し間を置いた。
「……一つ、先に伝えておく」
「何ですか」
「お前のことを——帝国の皇族の血筋であることは、今は公にできない。ルシアン殿下にも、今は全ては話せない」
「それは構いません」
「子のことも——今は」
「それは……」
「複雑な問題になる。両国の関係に影響する前に、段階を踏む必要がある」
エレナは頷いた。
「……分かりました」
「では——明日、会わせよう」




