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第127話「エレナの断片」
ある夜、エレナは夢を見た。
庭を歩いている夢だった。
黒い花が咲いている庭。夜明け前の光の中で、その花が深い赤を滲ませていた。
隣に、誰かがいた。
顔が見えない。でも——手の温もりが、分かった。大きな手。冷たそうなのに、温かい手。
「エレナ」
声が聞こえた。
低い、静かな声。
「……ここにいます」
夢の中で、エレナは答えた。
目が覚めた。
夜明け前の部屋に、一人だった。
夢の温もりが、まだ手の中に残っている気がした。
「……誰、だろう」
エレナは呟いた。
夢の中の声。名前を呼ぶ声。
「エレナ」
その声を、知っている。
記憶はない。でも——体が、知っていた。
その声が、自分にとって大切だということを。
エレナは起き上がり、窓を開けた。
夜明けの空気が流れ込んできた。
「……会いたい」
誰に、とは分からなかった。
でも——その感情だけは、確かだった。




