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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
127/150

第127話「エレナの断片」

ある夜、エレナは夢を見た。

庭を歩いている夢だった。

黒い花が咲いている庭。夜明け前の光の中で、その花が深い赤を滲ませていた。

隣に、誰かがいた。

顔が見えない。でも——手の温もりが、分かった。大きな手。冷たそうなのに、温かい手。

「エレナ」

声が聞こえた。

低い、静かな声。

「……ここにいます」

夢の中で、エレナは答えた。

目が覚めた。

夜明け前の部屋に、一人だった。

夢の温もりが、まだ手の中に残っている気がした。

「……誰、だろう」

エレナは呟いた。

夢の中の声。名前を呼ぶ声。

「エレナ」

その声を、知っている。

記憶はない。でも——体が、知っていた。

その声が、自分にとって大切だということを。

エレナは起き上がり、窓を開けた。

夜明けの空気が流れ込んできた。

「……会いたい」

誰に、とは分からなかった。

でも——その感情だけは、確かだった。

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