第125話「皇宮の内側」
エレナは皇宮の庭を歩くことが、日課になっていた。
表舞台には出られないが、庭は歩けた。
帝国の庭は、ヴァルドラの王宮の庭と似ているようで違った。花の種類も違う、配置も違う。
でも——どこかで、似た場所を知っている感覚があった。
「庭が好きなのか?」
ライアンが言った。
「……朝に歩くのが、習慣になっていて」
「どこかでそうしていたのかもしれない」
「そうかもしれません」
ライアンが、エレナの隣を歩いた。
「一つ話がある」
「はい」
「ヴァルドラ王国から、外交訪問の申請が来た」
エレナは少し間を置いた。
「ヴァルドラから、ですか」
「ルシアン王弟殿下の訪問申請だ」
エレナは止まった。
ルシアン。
その名前が——胸の奥の何かに、強く触れた。
「……どういう方ですか」
「ヴァルドラ王国の王弟。政務の中心人物で、優秀だと評判の男だ」
「なぜ帝国に?」
「表向きは友好訪問だが——タイミングが気になる。お前が帝国に来た直後に、ヴァルドラから申請が来た」
エレナは、ルシアンという名前を頭の中で反復した。
何かが——ある。
「……その方に、会うことはできますか」
「今は難しい。お前のことが外交問題になる前に、状況を整理する必要がある」
「でも——何か知っているかもしれません」
「知っているかもしれない。だから——慎重に進める」
エレナは庭を見た。
ルシアン。
その名前が、頭から離れなかった。




