第123話「子の父を探す試み」
帝国での生活が落ち着いてきた頃、ライアンがエレナに言った。
「子の父を探したい」
「……でも、私には記憶が」
「記憶がなくても、手がかりはある。お前がどこにいたか——ヴァルドラ王国、特に王宮に関係する人間の可能性が高い」
エレナは少し間を置いた。
「王宮に……いたんですか、私は」
「黒薔薇の花弁が、それを示している。それと——お前の立ち居振る舞いが、宮廷で長く過ごした人間のものだ」
「どういう意味ですか」
「歩き方、話し方、目配り——宮廷で鍛えられた動きがある。農村育ちの動きではない。訓練された動きだ」
エレナは、自分の手を見た。
「……私は、宮廷で働いていたんでしょうか」
「または、そこで育ったか。いずれにせよ——ヴァルドラの王宮と、関係がある」
「ヴァルドラの王宮に、連絡を取ることはできますか」
ライアンが少し間を置いた。
「……それは、慎重にしなければならない。お前が帝国の皇族の血筋だと分かった今——ヴァルドラとの外交問題にもなり得る」
「どういう意味ですか」
「帝国の皇女が、ヴァルドラ王国にいた。子を宿している——それが表に出れば、両国の関係に影響する」
エレナは窓の外を見た。
「……私のせいで、また複雑な問題が」
「お前のせいではない」
「でも——」
「エレナ」
ライアンが、珍しく穏やかな声で言った。
「お前は何も悪くない。全部、二十五年前に始まったことだ」
エレナは少し間を置いた。
「……ありがとうございます」
「礼はいらない。家族だから」
その言葉が——エレナの胸に、温かく落ちた。




