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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
121/150

第121話「帝国の日々」

帝国に来て一ヶ月が経った。

エレナの体は安定してきていた。朝の気持ち悪さは続いていたが、食事が取れるようになり、顔色が戻ってきた。

「少し、良くなりましたね」

皇宮に仕える侍医のヘルタが言った。

「はい。おかげさまで」

「お子様は、順調ですよ」

エレナは腹に手を当てた。

まだ目に見える変化はなかった。でも——確かに、いる。

誰との子か、分からないまま。でも——大切だと思った。

この子には、記憶のない自分でも感じる何かがあった。愛しい、という感情が、理屈なく湧いてきた。

「……ちゃんと産みます」

エレナは静かに言った。

「はい。大切にされてください」

部屋に戻ると、ライアンが来ていた。

「話がある」

「黒薔薇の花弁のことですか」

「それもある。まずそちらから」

ライアンが調べた結果を話した。

「黒薔薇は、ヴァルドラ王国の王宮にある。百年に一度しか咲かない珍しい花だ。外に出回ることは極めて少ない」

エレナは少し間を置いた。

「ヴァルドラ王国……」

「お前が倒れる前は、その近くにいたはずだ。フェルン町の方向から来ていたと聞いている」

「私は——ヴァルドラにいたんですか」

「可能性が高い。王宮に知り合いがいたかもしれない」

エレナは花弁を見た。

ヴァルドラ王宮の黒薔薇。

誰かが、これをエレナに渡した。

大切にしていた。ずっと持っていた。

「……誰に、もらったんだろう」

エレナは呟いた。

記憶が、霧の向こうにあった。

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