第120話「ルシアンの空白」
一方、ヴァルドラ王国では——。
ルシアンがヴァルン村に到着したのは、エレナが去った三日後だった。
村の老人に聞くと、エレナが市場の町で倒れたという話が伝わってきていた。
「カラン町で倒れたって聞いたよ。頭を打って——それから、旅の方に助けられて」
「どこへ行った」
「分からない。旅の方と一緒に、馬車で去ったそうで」
ルシアンはカラン町に急いだ。
宿の主人が言った。
「豪華な身なりの若い男が、倒れた女性を連れてきました。三日ほど泊まって——南の方角に出発しました」
「男の特徴は」
「背が高くて、藍色の目をしていた。従者が数人いて——服の紋章が、見たことのない形で」
「紋章の形を覚えているか」
「……鷲の翼のような形だったような」
ルシアンは、その言葉を頭の中で探った。
鷲の翼。
「……帝国か」
「え?」
「帝国の紋章が、鷲だ」
ルシアンは宿を出た。
帝国。
ヴァルドラ王国の南東に位置する、広大な帝国。王国よりはるかに大きな国だ。
なぜ帝国の人間が、この辺境の市場町に——。
「帝国に向かったのか」
確信はなかった。でも、他に手がかりがない。
ルシアンは馬を走らせた。
南東へ。
エレナが連れて行かれた、可能性のある方向へ。
しかし——帝国は遠かった。
馬で十日以上かかる距離だ。
その間に、エレナはどこにいるのか。無事か。怪我の具合は——。
「必ず見つける」
ルシアンは心の中で言った。
四度も、五度も関係ない。
何度でも——見つける。




