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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
117/150

第117話「帝国の宮廷」

十日後、エレナは帝国の宮廷に着いた。

ヴァルドラ王国の王宮とは、また違う壮大さがあった。

石造りの高い壁、広大な敷地、整然と並ぶ建物——全てが、エレナの知る何よりも大きかった。

いや。

(知る、とはどういう意味か)

エレナは自問した。記憶がない自分が、何かを「知っている」というのはどういうことか。

でも確かに、宮廷の廊下を歩くとき、足が自然と動いた。大きな場所の歩き方を、体が覚えていた。

皇后——ライアンの母が、エレナを待っていた。

応接室に入った瞬間、皇后が立ち上がった。

五十代の女性だった。白髪が混じり始めた黒髪、整った顔立ち——そして目の色が、エレナと同じだった。

「……ラウラ」

皇后が、かすかに震える声で言った。

「母上」

ライアンが止めた。

「まだ確認が取れていません」

「でも——この顔、この目——」

「血の判定をするまでは」

皇后は、エレナを見た。

エレナは、その目を見た。

似ている。ライアンが言った通り、確かに——自分の顔と、この女性の顔は似ていた。

「……あなたが、皇后様ですか」

「そうです。あなたは——何も覚えていないのですか」

「……はい。何も」

皇后の目に、涙が浮かんだ。

「血の判定を、すぐに行います」

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