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第117話「帝国の宮廷」
十日後、エレナは帝国の宮廷に着いた。
ヴァルドラ王国の王宮とは、また違う壮大さがあった。
石造りの高い壁、広大な敷地、整然と並ぶ建物——全てが、エレナの知る何よりも大きかった。
いや。
(知る、とはどういう意味か)
エレナは自問した。記憶がない自分が、何かを「知っている」というのはどういうことか。
でも確かに、宮廷の廊下を歩くとき、足が自然と動いた。大きな場所の歩き方を、体が覚えていた。
皇后——ライアンの母が、エレナを待っていた。
応接室に入った瞬間、皇后が立ち上がった。
五十代の女性だった。白髪が混じり始めた黒髪、整った顔立ち——そして目の色が、エレナと同じだった。
「……ラウラ」
皇后が、かすかに震える声で言った。
「母上」
ライアンが止めた。
「まだ確認が取れていません」
「でも——この顔、この目——」
「血の判定をするまでは」
皇后は、エレナを見た。
エレナは、その目を見た。
似ている。ライアンが言った通り、確かに——自分の顔と、この女性の顔は似ていた。
「……あなたが、皇后様ですか」
「そうです。あなたは——何も覚えていないのですか」
「……はい。何も」
皇后の目に、涙が浮かんだ。
「血の判定を、すぐに行います」




