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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
116/150

第116話「帝国への道」

出発の準備を、ライアンがした。

エレナは宿で三日ほど静養した後、旅ができる体になった。

ただ——体の変化は続いていた。朝の気持ち悪さが続き、食事が取りにくかった。

「無理はするな」

ライアンが言った。

「……子供のために、気をつけます」

「お前自身のためにもだ」

馬車の中で、エレナは外の景色を見た。

知らない景色だった。でも——山と川のある景色が、どこか懐かしかった。

「一つ、聞いていいですか」

エレナがライアンに言った。

「何だ」

「あなたは、帝国の皇太子ですか」

ライアンが少し間を置いた。

「……なぜそう思う」

「従者の方の接し方が、そうだと感じたので」

「……ああ、そうだ」

「では、私が皇族の血筋なら——あなたとは、どういう関係になりますか」

「妹になる」

その言葉は、静かだった。

妹。

エレナはその言葉を頭の中で転がした。

覚えていない。でも——兄、という概念が、どこか遠くに感じた。

「……私は、ずっと一人だと思っていました」

「思っていた、か。ということは——誰かと一緒にいた記憶の断片があるか?」

「断片ではなく——感覚だけです。一人ではない、という感覚だけが、ある」

ライアンは黙っていた。

「……見つけてやる。お前の記憶を取り戻す方法も、過去も」

エレナはライアンを見た。

藍色の目が、真剣だった。

「……ありがとうございます」

「礼はいらない。家族なら当然のことだ」

その言葉が——エレナの胸の奥に、静かに落ちた。

家族。

その言葉も、どこか懐かしかった。

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