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第111話「助けた男」
「誰か! この方が倒れた!」
市場に声が響いた。
人だかりができた。
その中に、一人の男がいた。
年齢は二十代後半。背が高く、日に焼けた肌に、深い藍色の目をしていた。豪華ではないが質の良い旅装束を着ていて、傍に数人の従者がいる。
男はエレナの傍に膝をつき、状態を確認した。
「脈は」
従者が確認した。
「あります。ただ——頭を打っています」
男がエレナの顔を見た。
そして——止まった。
「……この方は」
従者が首を傾げた。
「殿下?」
男の目が、エレナの顔に釘付けになっていた。
白い肌、黒い髪、整った顔立ち——そして、目の色。
まだ目を閉じているが、その目の形が——。
「運べ。近くの宿に」
「はい」
「丁寧に。頭を打っているから、揺らすな」
エレナは男の従者に抱えられ、市場の近くの宿に運ばれた。
男は宿の主人に金を渡し、一番良い部屋を借りた。
「医師を呼べ。今すぐ」
「はい、すぐに」
エレナが寝台に寝かされた。
男は椅子を寄せ、エレナの顔を見た。
(似ている。あまりにも、似ている)
藍色の目が、エレナの顔を細かく確認した。
鼻の形、口の形、顎のライン——全部が、男の脳裏にある一人の女性の顔と重なった。
「……ラウラ」
男は呟いた。
帝国の皇后の名を。




