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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
110/150

第110話「秋の市場で」

九月の終わり、ヴァルン村に秋が深まっていた。

エレナは朝から体が重かった。

ここ数週間、朝になると気持ちが悪くなることが続いていた。薬草師として、その症状の意味は——考えないようにしていた。考えれば、あの夜のことを思い出すから。

フェルン町の霧橋亭での、三日間。

ルシアンと過ごした、あの夜を。

(考えてはいけない)

エレナは自分に言い聞かせた。

でも体は、正直だった。

ジーナ老婆には何も言わなかった。ただ、仕事を続けた。

その日、村の薬草の在庫が切れかけていた。山を越えた先の小さな市場町、カラン町まで買い出しに行く必要があった。

「一人で行けるか? 顔色が悪いが」

ジーナが心配そうに言った。

「大丈夫です。半日で戻ります」

「無理するなよ」

「しません」

エレナは布袋を持って、山道を歩いた。

カラン町は、ヴァルン村よりは大きな市場町だった。様々な商人が集まり、薬草、食料、布地——一通りのものが揃う。

エレナは薬草屋を回り、必要なものを買い集めた。

動いていると、少し気持ちの悪さが和らいだ。

市場の中ほどを歩いていたとき——突然、視界がぐるりと回った。

(あ、まずい)

思った瞬間、足が崩れた。

石畳に倒れる際に、頭が何かにぶつかった。

鈍い衝撃。

それから——何もかが、暗くなった。

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