107/150
第107話「秋の足音」
八月の終わり、ヴァルン村に秋が近づいてきた。
野原の花が少なくなり、木々が色づき始めた。川の水が少し冷たくなった。
エレナは薬草の収穫を急いでいた。冬の前に、使える薬草を全部干して保存しなければならない。
村の子どもたちも手伝ってくれた。
「これはどこに置く?」
「軒下に。束にして、逆さに吊るします」
「重い!」
「手伝いましょう」
子どもと一緒に薬草を吊るしながら、エレナは秋の空を見た。
高い空だった。
この空の下、王都も同じ空を見ているはずだ。
ルシアンも——この空を、どこかで見ているはずだ。
その日の夕方、村に旅人が来た。
王都からの行商人で、様々な物資と一緒に、王都の噂も持ってきた。
「王都では、ルシアン王弟殿下が大変お忙しいそうで」
行商人が女将と話しているのを、エレナはたまたま聞いた。
「何でも、カルセンと新しい条約を結んで、セルディアとの関係も新しい形で落ち着いたとか。殿下がずっと動かれた結果だそうですよ」
エレナは静かに、その言葉を受け取った。
(セルディアとの問題が、解決した)
ということは——婚約の話も、変わったのか。
エレナは部屋に戻り、川を見た。
夕日が川面を染めていた。
(あなたは——今、どんな顔をしていますか)




