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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
106/150

第106話「カルセンの動き」

七月、カルセンのミラが動いた。

ヴァルドラとセルディアの間に立ち、通商条約の新たな枠組みを提案した。婚姻ではなく、経済的な結びつきと相互防衛協定によって、両国の関係を安定させる——という内容だった。

ルシアンはその提案書を読んで、静かに言った。

「ミラが、動いてくれた」

「カルセンがここまでするとは、予想していませんでした」

アグネスが言った。

「エレナのおかげだ」

「……え?」

「エレナが最初にミラと話した。誠実に、正直に。それが——ミラの信頼を生んだ」

「では、エレナさんが遠くから、この状況を動かしている……」

「そういうことだ」

ルシアンはミラの提案書を丁寧に読んだ。

外交上の問題を解決する糸口が、ここにあった。

この提案が通れば——国王の論拠が変わる。セルディアとの婚姻が、国の安定のために必須ではなくなる。

「兄上に、見せる」

ルシアンは立ち上がった。

国王の部屋に向かった。

「ミラ代表からの提案書だ。これを見てほしい」

国王が受け取り、読んだ。

長い沈黙が落ちた。

「……カルセンが仲介に入るとは」

「エレナが築いた関係だ」

国王が、ルシアンを見た。

「……お前は、まだ諦めていないのか」

「諦めない。何年でも」

国王はしばらく黙っていた。

「……このミラの提案が実現するなら——セルディアとの婚姻は、必要なくなるかもしれない」

「そうだ」

「お前は、そこまで計算して」

「エレナは計算していなかった。ただ誠実に動いた。その結果がここに来た」

国王が、ため息をついた。

「……時間をくれ。検討する」

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