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黒薔薇の檻  作者: 麗夜
105/150

第105話「ヴァルン村の夏」

夏になった。

ヴァルン村は、夏も静かだった。

エレナは薬草師の仕事を続けていた。ジーナ老婆の信頼を得て、村人たちにも少しずつ受け入れられてきた。

子どもたちがエレナの小屋に遊びに来るようになった。薬草の話をすると、目を輝かせて聞いた。

「エレナさん、これ何の草?」

「それはヤロウといって、傷に塗ると早く治ります」

「魔法みたい!」

「魔法じゃなくて、自然の力です」

「おなじじゃん!」

エレナは笑った。

子どもたちと話しているとき——久しぶりに、心から笑えた気がした。

でも夜になると、静かになった。

川の音を聞きながら、ルシアンのことを考えた。

今頃、どこにいるのか。

海外訪問が長いと、アグネスが出発前に言っていた。二ヶ月近く、外を回るはずだった。

帰国しているころか。

仕事は山積みのまま、だろう。眠れているか。ちゃんと食べているか。

(心配は、止まらない)

愛しているから。

だから——こんなにも、遠くにいて、こんなにも近くに感じる。

夏の夜、エレナは一枚の花弁を取り出した。

黒薔薇の押し花だった。王宮を去るとき、持ってきたものだ。

その花弁を掌に乗せて、見た。

まだ黒かった。光を知った後も、この色は変わらなかった。

(あなたは、今どこにいますか)

声に出さずに、聞いた。

答えは、来なかった。

川の音だけが、続いていた。

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