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第104話「ルシアンの手紙」
五月になった。
ルシアンは海外訪問を続けながら、毎日手紙を書いた。
エレナ宛の手紙を。
届け先が分からなかった。でも、書いた。
書くことで——自分の気持ちを、整理した。
今日はこんなことがあった。カルセンで美しい花を見た。お前が見たら何と言うか、と思った。
セルディアの市場に、お前が好きそうな薬草があった。名前を覚えておいたから、いつか一緒に来よう。
眠れない夜が続いている。お前の草薬茶が、やはり一番効いていた。
毎日、書いた。
届かない手紙を。
六月に帰国したとき、ルシアンの机には百通近い手紙の束ができていた。
アグネスがそれを見て、何も言わなかった。ただ、目を赤くした。
「エレナの手がかりは、まだ」
「ありません。申し訳ありません」
「……お前のせいではない」
ルシアンは手紙の束を引き出しに入れた。
「これをいつか、渡す」
「殿下——」
「必ず渡す。それが——今の私にできることだ」




