第103話「海外で聞いた話」
セルディアへの訪問の日が来た。
ルシアンはカリア王女に会った。
噂通り、聡明な女性だった。外交の知識があり、落ち着いていて、人当たりが良い。
ルシアンは率直に言った。
「婚約はお断りします」
カリアが、少し間を置いた。
「……正直ですね」
「時間を無駄にしたくないので」
「理由を聞いてもいいですか」
「想う人がいます」
カリアが少し笑った。
「宮廷で話題になっていた方ですか。平民出身の」
「はい」
「今は、どこに?」
「……探している最中です」
カリアがルシアンを見た。
「あなたは——彼女のために婚約を断っているんですか。それとも、彼女が好きだから断っているんですか」
「どう違う」
「前者は義務から、後者は感情から。どちらかによって——あなたの行動の意味が変わる」
ルシアンは少し考えた。
「……両方だ。彼女が好きだから断る。それがひいては、彼女のためになる」
カリアがうなずいた。
「分かりました。婚約はなかったことにします。ただ——一つ」
「何だ」
「彼女が戻ってこないとしても——あなたは諦めますか」
「諦めない」
「何年かかっても?」
「何年でも」
カリアが、少し目を細めた。
「……羨ましいですね」
「何が」
「そこまで思われている人が。彼女は幸せ者だ、気づいていなくても」
ルシアンは、その言葉を静かに受け取った。
「……彼女が知るように、する」
「ぜひそうしてください」
帰路、ルシアンは馬車の中で考えた。
カリアの言葉。エレナが幸せ者だ。
(そうじゃない。エレナを幸せにするのが、私の仕事だ)
まだ、何もできていない。




