18.アディアと一緒に
「これ、東方の祭文化なのですよね?」
「らしいな。行商人の中に東方出身の人間がいて、それをアレンジしているとか」
「あぁ、なるほど。だから私のデータにあるものと、少し異なっているのですね」
俺とアディアは露店を巡りながら、そんな会話をしていた。
温泉までの道に連なる、様々な露店のこと。そして、アディアの持っている情報の中にある東方の文化について。他愛のない世間話だった。
「この、綿菓子、というのは……東方のお菓子ですね。はむっ!」
「へぇ、そうなのか。俺は南方出身だから、本当に初めてだな……」
雲のような飴細工に顔を埋めるアディア。
その姿に思わず頬が緩むのを感じながら、俺はそんなことを言った。
すると、何を思ったかアディアはキョトンとする。そして綿菓子を差し出してきた。首を傾げる俺に、彼女はこう一言。
「……とっても甘くて、美味しいですよ。食べます?」
「ぶっ!? ゲホッ、けほっ!?」
それに俺は吹き出した。
とうとつに言われたものだから、そのままむせ返ってしまう。
「だ、大丈夫ですか!? えっと、リクさん。どうされたのですか!?」
「ど、どうしたもこうしたも、お前……っ!」
お前の食べかけの綿菓子。
それ食べたら、その……間接キスになるかもだろうがっ!!
「わ、私なにか変なこと言いました!?」
そのことに気付いていないのであろう。
アディアは困惑した表情を浮かべて、オロオロしている。
俺はとりあえず彼女を安心させるために、呼吸を整えるのであった。
「だ、大丈夫だから。とりあえず、綿菓子はまた自分で買うから!」
「そう、ですか? ……分かりました」
「ん? どうしたんだ。アディア」
「いえ、なんでも……」
「キュキュ?」
どうにも、少女の様子がおかしい。
足元をテコテコとついてきていたフリルも、不思議そうに見上げていた。
「その、ただ……」
と、そうしていると彼女はどこか恥ずかしそうに、こう言う。
「……リクさんと。半分こ、してみたかったんです」
頬を赤らめて。
そんな、破壊力満点の一言を放つのであった。
「――――――――――」
俺は息をつまらせる。
なんだ、これ。もの凄く、胸の奥が熱くなるのですけど。
「キュキュ!」
「あ、フリルさんっ!」
その時だった。
フリルがアディアの方に飛び乗り、綿菓子を舐めたのは。
「ははっ。じゃあ、自分が……ってところかな?」
「ふふふっ、そうですかね?」
「キュキュ~!」
それはフリルなりの気遣いだったのだろう。少し、空気がなごむ。
ひとしきり笑って、俺は視線を別の方向へと投げた。
「…………あ」
すると、そこにある一つの屋台が目に入った。
俺はピンときてアディアに向き直り、提案することにする。
「アレなら半分こ、出来るんじゃないか?」
そして、その屋台を指差すのであった。
◆◇◆
「あったかいですね! これが、たこ焼き、というのですね。はふはふ」
「あぁ、そうだな。これなら、二人で分け合えるし、な」
「はい! そうですね!」
俺たちは、粘り気のあるタレのかかった球体の食べ物を手に歩く。
これも東方の国の食品。名前をたこ焼き、というらしい。ふんわりとした食感と、絡みあう濃厚なタレが絶妙であった。
もしや東方の国々は、食の先進国なのではないのか?
そんなことを考えながら、満足気なアディアの隣を歩く。
彼女は幸せそうに頬を押さえていた。
「あれ、そういや。今さらなんだけどさ……」
「ん? どうかしました?」
俺はそこでふと思い出し、疑問を口にする。
「アディアって、普通に食事出来るのか?」
それは、最初の頃に抱いていた謎の再考であった。
思い出してみると、彼女は食事を拒むような、あるいは遠慮するような発言をしていた。それは人化に魔力を消費するからだ、と。
「そう言えば、最近は普通に人化してるし……」
そうだった。
流されて忘れていたが、彼女の人化の回数は増えている。
それは、いったいどういうことなのか。俺は疑問に思ったのだ。
「……あぁ。そのことですか」
するとアディアは、静かな微笑みを浮かべた。
そして、こう語り始める。
「もっと、色んなことを知りたいって、そう思ったのです。リクさんたちが、どのように感じているのか、ということを。それには、剣のままではいけませんから」
まるで、何かを慈しむように。
彼女はそう言ってまた一つ笑うと、こう続けた。
「だから、今はこうやっているのです!」
満面の、笑みで。
それはとても、幸せに満ちていた。
だから俺は自然と、こう答えるのであった。
「……じゃあ、ユリアにも。村のみんなにも、アディアを紹介するよ」
「え、それってどういう……」
その言葉に、少女はキョトンとする。
俺は前を向いて、自分の思いを口にした。
「そうすれば、もっといろんなことが出来る。アディアは俺についてくるだけじゃなくて、たくさんの人と自由に話が出来るだろ?」
そして、最後に。
「それに、その方がきっと……もっと楽しいから、さ」
そう、俺の素直な気持ちを言葉にするのだった。
「リクさん……」
こちらの言葉に、アディアはそう漏らす。
次いで、小さく頷く。
「分かりました。そうですね、そっちの方がきっと楽しいに違いありません!」
そして、俺の言葉に元気に同意するのであった。
なにか今まであった壁がまた一つ。壊れていくような、そんな気がした。
よし、そうと決まれば善は急げというところだろう。
今度は俺がアディアの手を引く。そして、ユリアのもとへと駆けるのであった。




