表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/20

18.アディアと一緒に






「これ、東方の祭文化なのですよね?」

「らしいな。行商人の中に東方出身の人間がいて、それをアレンジしているとか」

「あぁ、なるほど。だから私のデータにあるものと、少し異なっているのですね」


 俺とアディアは露店を巡りながら、そんな会話をしていた。

 温泉までの道に連なる、様々な露店のこと。そして、アディアの持っている情報の中にある東方の文化について。他愛のない世間話だった。


「この、綿菓子、というのは……東方のお菓子ですね。はむっ!」

「へぇ、そうなのか。俺は南方出身だから、本当に初めてだな……」


 雲のような飴細工に顔を埋めるアディア。

 その姿に思わず頬が緩むのを感じながら、俺はそんなことを言った。

 すると、何を思ったかアディアはキョトンとする。そして綿菓子を差し出してきた。首を傾げる俺に、彼女はこう一言。


「……とっても甘くて、美味しいですよ。食べます?」

「ぶっ!? ゲホッ、けほっ!?」


 それに俺は吹き出した。

 とうとつに言われたものだから、そのままむせ返ってしまう。


「だ、大丈夫ですか!? えっと、リクさん。どうされたのですか!?」

「ど、どうしたもこうしたも、お前……っ!」


 お前の食べかけの綿菓子。

 それ食べたら、その……間接キスになるかもだろうがっ!!


「わ、私なにか変なこと言いました!?」


 そのことに気付いていないのであろう。

 アディアは困惑した表情を浮かべて、オロオロしている。

 俺はとりあえず彼女を安心させるために、呼吸を整えるのであった。


「だ、大丈夫だから。とりあえず、綿菓子はまた自分で買うから!」

「そう、ですか? ……分かりました」

「ん? どうしたんだ。アディア」

「いえ、なんでも……」

「キュキュ?」


 どうにも、少女の様子がおかしい。

 足元をテコテコとついてきていたフリルも、不思議そうに見上げていた。


「その、ただ……」


 と、そうしていると彼女はどこか恥ずかしそうに、こう言う。


「……リクさんと。半分こ、してみたかったんです」


 頬を赤らめて。

 そんな、破壊力満点の一言を放つのであった。


「――――――――――」


 俺は息をつまらせる。

 なんだ、これ。もの凄く、胸の奥が熱くなるのですけど。


「キュキュ!」

「あ、フリルさんっ!」


 その時だった。

 フリルがアディアの方に飛び乗り、綿菓子を舐めたのは。


「ははっ。じゃあ、自分が……ってところかな?」

「ふふふっ、そうですかね?」

「キュキュ~!」


 それはフリルなりの気遣いだったのだろう。少し、空気がなごむ。

 ひとしきり笑って、俺は視線を別の方向へと投げた。


「…………あ」


 すると、そこにある一つの屋台が目に入った。

 俺はピンときてアディアに向き直り、提案することにする。


「アレなら半分こ、出来るんじゃないか?」


 そして、その屋台を指差すのであった。



◆◇◆



「あったかいですね! これが、たこ焼き、というのですね。はふはふ」

「あぁ、そうだな。これなら、二人で分け合えるし、な」

「はい! そうですね!」


 俺たちは、粘り気のあるタレのかかった球体の食べ物を手に歩く。

 これも東方の国の食品。名前をたこ焼き、というらしい。ふんわりとした食感と、絡みあう濃厚なタレが絶妙であった。


 もしや東方の国々は、食の先進国なのではないのか?


 そんなことを考えながら、満足気なアディアの隣を歩く。

 彼女は幸せそうに頬を押さえていた。


「あれ、そういや。今さらなんだけどさ……」

「ん? どうかしました?」


 俺はそこでふと思い出し、疑問を口にする。


「アディアって、普通に食事出来るのか?」


 それは、最初の頃に抱いていた謎の再考であった。

 思い出してみると、彼女は食事を拒むような、あるいは遠慮するような発言をしていた。それは人化に魔力を消費するからだ、と。


「そう言えば、最近は普通に人化してるし……」


 そうだった。

 流されて忘れていたが、彼女の人化の回数は増えている。

 それは、いったいどういうことなのか。俺は疑問に思ったのだ。


「……あぁ。そのことですか」


 するとアディアは、静かな微笑みを浮かべた。

 そして、こう語り始める。


「もっと、色んなことを知りたいって、そう思ったのです。リクさんたちが、どのように感じているのか、ということを。それには、剣のままではいけませんから」


 まるで、何かを慈しむように。

 彼女はそう言ってまた一つ笑うと、こう続けた。


「だから、今はこうやっているのです!」


 満面の、笑みで。

 それはとても、幸せに満ちていた。

 だから俺は自然と、こう答えるのであった。


「……じゃあ、ユリアにも。村のみんなにも、アディアを紹介するよ」

「え、それってどういう……」


 その言葉に、少女はキョトンとする。

 俺は前を向いて、自分の思いを口にした。


「そうすれば、もっといろんなことが出来る。アディアは俺についてくるだけじゃなくて、たくさんの人と自由に話が出来るだろ?」


 そして、最後に。


「それに、その方がきっと……もっと楽しいから、さ」


 そう、俺の素直な気持ちを言葉にするのだった。


「リクさん……」


 こちらの言葉に、アディアはそう漏らす。

 次いで、小さく頷く。


「分かりました。そうですね、そっちの方がきっと楽しいに違いありません!」


 そして、俺の言葉に元気に同意するのであった。

 なにか今まであった壁がまた一つ。壊れていくような、そんな気がした。







 よし、そうと決まれば善は急げというところだろう。

 今度は俺がアディアの手を引く。そして、ユリアのもとへと駆けるのであった。





 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ