17.ライムよせめて安らかに 2
行商人の方々との商談はその後、想像以上に円滑に進んだ。
結果としては一定の場所代を支払い、露店を出すこと。またそこで得た利益の一部を村に収める、という形になった。中々の好条件だと言える。
まぁ、例によって。
そこには、お孫様の存在があったのだけど。
「さて、そんなわけで。いよいよオープンか」
『短いようで、短かったですね……実際に』
「そうだな……」
本当に早かった。
着工からここまでくるのに、まだ三十日余だ。
「ふぅ。露店は東方にある国をイメージしてみました! 完璧です!」
「お! お孫様。お勤めご苦労様です!」
「リクさん、ったら。やめてくださいよ、もう!」
さて、俺とアディアが露店を眺めているとユリアがやってきた。
今日の分の商談を終えたのであろう。その表情はとても晴れやかだった。
『お疲れ様です。ユリアさん……? その服装はなんですか?』
「あぁ、これ? これも東方の国の伝統的なものでね、浴衣って言うんだ! 交易品なんだけど、広めるためにって理由でいただいたんだっ!」
『浴衣、ですか。これが……ほうほう』
ユリアの服に、興味津々なアディアさん。
どうやらそれは一枚の大きな服を、帯で留めているものらしかった。
華やかな柄だが、どこか慎ましやかさを感じる。なんとも可愛らしい服装だ。
「へぇ、可愛いな」
「えへへっ! ありがとうございます!」
なので、俺が素直な感想を述べるとユリアはにっこり。
満面の笑みを浮かべた。
『……あの、リクさん。少しよろしいですか?』
「ん? どうしたんだ、アディア」
『お話があるのですが……』
さて、そうしているとアディアがそう言ってくる。
俺たちはユリアに一旦、別れを告げて物陰へ。
すると聖剣さんはこう言った。
『私も、浴衣が着てみたいです!!』
それは、有無を言わせぬ程に輝きに満ちた声であった。
◆◇◆
そんなわけで。
「ふふふっ! ありがとうございます、リクさん!」
「い、いや。気にしなくていい……」
人化したアディアは、浴衣に着替えたのであった。
ユリアには俺の知り合いの『ナディア』さんだと説明。特別に浴衣を無料で貸し出してもらった。お孫様のそれとは異なり、淡い青を基調としたもの。
細身の身体に良く似合うその格好は、美しく、可憐であった。
「? どうされたのですか、リクさん。顔をそらして……」
「い、いや! なんでもないから!」
「そう、ですか……?」
アディアは不思議そうに、こちらを見て首を傾げる。
しかし、俺はそう言ってそっぽを向くのであった。何故なら、あまりに彼女が綺麗だったから。長い髪を一つにまとめ、うなじを見せるアディアには、いつもと違う魅力が満ちていた。
「キュキュ!」
「あ、フリルさん! ふふふ、くすぐったいですよ!」
そんな可憐な少女に、飛び付いて甘える小動物ことフリル。
あぁ、なんと微笑ましい光景であろうか。小動物を抱いて、明るい笑みを浮かべる美少女。心穏やかになること、この上なかった。
もふもふ。ふわふわ。
そんな、緩やかな空気が、そこにはあった。
「あ、見てくださいリクさん! そこの露店が盛り上がってますよ!」
「え、ちょっと……」
さて。そんな様子に心癒されていると、だ。
不意に、アディアは俺の手を取って駆け出したのだった。その勢いに俺はつまづきかけるが、どうにかこらえる。そして、自然と笑ってしまっていた。
あぁ……こんな楽しい時間も、悪くないな、と。
「ん? ちょっと待て、アディア」
だが、そう思った矢先にあることに気付いた。
「あの露店の店主、ライムじゃないか?」
「本当ですね。何してるんでしょう」
ひときわ盛り上がりを見せている露店の店主が、あのスライムだということに。
俺たちは頭上に疑問符を浮かべながら接近した。
「デュフフフフwww順番、順番でござるよwww」
すると聞こえてきたのは、そんな奴の声。
何事かと感じた俺とアディアは、人波を掻き分けて進むのであった。
「おーい、ライム。何やってるんだよ」
「おおwww誰かと思えば、ご主人様wwwアディア嬢もwww」
声をかけると彼は、いつもの口調で俺たちを出迎える。
「お前、なにやってるんだよ」
「何ってwww見ての通り、商売でござるよwww」
「商売って、いったい何を売って……って、お前これは!?」
俺はライムの言葉を聞いて、並んでいる商品に目をやった。
すると気付く。そこにある物は、決して売ってはならぬ物だということに。
「お前、これがユリアにバレたりしたら……!」
「デュフフwww」
冗談じゃすまない。そう、俺は直感した。
なぜならそこに並んでいたのは、ユリアのブロマイドだったのだから! 写真には。おはようからおやすみまで。様々な姿のユリアが収められていた。
「ばれなきゃ、罪は罪でないでござるよwww」
「お前……」
どうやら、完全に調子に乗っているらしい。
スライムは自分の死期に気付かず、そんな余裕を見せた。そう、すでにお孫様は、すぐそこまで迫っているということに……。
「申し訳ございません。これ、一枚お願いできますか?」
「デュフフフwwwお買い上げありがとうでござ……」
「あははっ。ずいぶんと繁盛しているんだね?」
「……………………」
「でも、おかしいなぁ。申請では輪投げの屋台だと、そうなっていたような気がするんだけど?」
数々のブロマイドを見回しつつ、微笑むお孫様がそこにいた。
軟体生物とは思えぬ硬直を見せるライム。そんな彼に向かって、お孫様は微笑みを絶やすことはなかった。しかし、隠せぬ怒りがそこにある。
「ライムさん。ちょっと、来てくれる?」
気付けば、客は散り散りになっていた。
誰もが素知らぬ顔をして、ライムを切り捨てたのである。
「にゅふ……拙者は、その……」
「言い訳は、あとでたっぷり聞くからね? それじゃ、親衛隊のみなさんお願い致します~っ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ユリアが号令をかけると、若い衆がどこからともなく現われた。
そして屋台をあっという間に解体し、ライムのことを連行する。
「ふぎゃああああああああああああああああああああっ!?」
村全体に、ライムの悲しい叫び声がこだました。
「それでは、アタシは失礼します。お二人は楽しんでくださいねっ!」
ユリアは恭しく一礼して、去っていった。
取り残された俺とアディアは、彼らが去っていった方向を呆然と見つめる。そして、その沈黙が数十秒ほと続いた後、ようやく口を開くのであった。
「次、行くか」
「そう、ですね」
ライムの行く末など忘れて。
とにもかくにも、楽しむことにするのであった。
https://ncode.syosetu.com/n6583eu/
「魔法使い、パーティーから追放される。~でも、ホントは最強の前衛でした~」
こちらの応援もよろしくです!!
<(_ _)>




