13.温泉開拓計画進行中
さてさて。
ユリアの意見については乗りかかった船であり、俺は特に異論もなかった。
けれどもその計画はあまりに大きく、実現は少し難しいように思われる。したがって、当然のように村では賛否両論が沸き起こるわけであった。
「おいおい。お孫様は、何を考えておられるんだ?」
「たしかに、それが出来れば村は発展するだろうが……」
「いやいや。無理だろう、そんなの出来っこないって」
村民はみな、口々にそう言うのである。
誰もが半信半疑。しかし、もし出来るなら願ってもないことだと、そう思っているに違いなかった。そんな彼らに向かって、ユリアはこう叫ぶ。
「みなさんは、この村を大きくしたくないのですか!? 子供たちは成長すると大きな街へ出て行ってしまう。そんな現状を変えたくはないのですか!!」
それはさながら、国民に呼びかける王のように。
「そりゃあ、俺たちだって子供には何か残したい。でも……」
「それならば今、動かないでいつ動くのですか!? 私たちはいつまでも、あの臭くて気持ちの悪いヌタクサばかりを狩っている場合ではないのです!!」
「いや。お孫様? 一応、あれでも村の名産品ですので……」
「それが、どうしたというのですか! 過去は過去。感謝こそすれ、いずれは決別しないといけない時もあるのです!!」
言いよどむ村人の一人を、ユリアは断じた。
自分たちは、あの臭い雑草を狩るだけの人間ではないのだ、と。
それは今まで、自分たちの生活を支えてくれた物に対する発言とは、とても思えなかった。だがしかし、それもまたユリアの覚悟でもあったのであろう。
「みなさんはアタシたちが行商人の方々から、なんと言われているか御存じなのですか? 知らないはずがないでしょう。あのように屈辱的な言葉!!」
「そ、それは……!」
ユリアの言葉に、数人の村人がざわめく。
そんな様子を見ながら、俺とアディアはボンヤリと話していた。
『凄いですねぇ、ユリアさん。将来は大物政治家、ですね』
「いや。政治家というより、一国をまとめ上げれそうな勢いだな……」
『というか。屈辱的な言葉、とはいったいどんなものなのでしょうか』
「知らなくていいんじゃないか? だって、お前……」
そのヌタクサで、ベトベトになってたじゃん。
そう言いかけて俺は口を噤んだ。よくよく考えてみれば、その責任の一端は俺にもあったのだ。ここでそれを思い出されては、何となく居心地が悪い。
『というか、そんな村人でさえ毛嫌いする物を私たちは採ってきたのですね』
「それな。今思い出しても、本当に臭いが酷かった……」
と、俺の心配はよそにアディアは淡々とそう続けるのであった。
それなら安心と、俺も思い出話を口にする。
「キュキュ?」
『ん~? フリルちゃんは、気にしなくても良いんですよ~?』
その話に入りたそうにしているフェンリルに、声のトーンを上げて接するアディア。俺に対するそれとは、まったく異なる声色であった。
何故だろう。ちょこっとだけ、モヤモヤした気持ちが……。
「……と。そんな話をしている間に、まとまったみたいだな」
『そうですね。ユリアさんがこっちに走ってきますね』
「お~い! みんな~っ!!」
そんなこんなで、であった。
いつものメンバーが集合したのである。
ちなみに、ライムは先日の一件により謹慎処分であった。
「みんな、納得してくれたよ! ほら、見て!」
「ん? どれどれ……」
嬉しそうに言うユリアに促され、俺は村人の集いに目を向ける。
すると、そこにあったのは……。
「お孫様の後に続け! 我らはもう、貶されるだけの民にあらず!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「L、O、V、E!! アイラブお孫様!!」
……なにかの宗教団体!?
『やはり、ユリアさんは将来、この村を背負って立ちますね』
「えへへ~っ! いずれはそうなりたいけど、ね?」
「なりたいのか……」
グッと、胸の前で拳を握りしめるユリア。
そのたくましい姿勢に、俺は思わず目を細めてしまうのであった。
『さて。それでは、いつから着工ですか?』
「明日だよ! 早い方がいいからね!」
「はやっ!?」
アレだけ渋っていた人がいたにも関わらず!?
俺は内心でそうツッコむ。
だが、とにもかくにも話はまとまったらしかった。
「まぁ、いいか。とりあえず明日から始まるんだな」
「うんっ! リクさんもよろしくね!」
よし、そうと決まれば今日はゆっくり休もう。
そして、明日に備えるのだ!
◆◇◆
そんなこんなで、翌日。
ライムを除く俺たちメンバーは、村の若い男衆を率いて森にやってきた。
「それじゃ、みなさん! よろしくお願いします!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「お、お~……!」
しかし、手伝うのはやぶさかではない。
やぶさかではないのだが、このテンション差はどうにかならないかな?
『ふふふっ。リクさん、少し元気が足りないのでは?』
「茶化すなよ、アディアまで……」
『ふふふっ!』
若い衆は完全にユリアを中心としてまとまっており、どこか空気の違いを感じるのであった。俺はひとまず皆にならって拳を突き上げるが、どこか気恥ずかしい。
そして、それを茶化してくるアディア。
うぅ。なんなのだ、この辱めは……!
「はい、そこ! リクさんにアディアさん、いちゃついてないで手伝って!」
「あ、あぁ。分かったよ! って、別にいちゃついてないからな!?」
と、そんなことを考えている場合ではなかった。
俺はユリアに返事しながら、作業に取り掛かることとする。
「アディア、一気に行くぞ!」
『はい、分かりました!!』
俺が彼女を一振りすると、一気に数本の木々が倒れる。
すると若い衆の皆様は感嘆の声を上げた。
「おぉ! すげぇな、リク!!」
「さすがだな!!」
俺はどこか気恥ずかしくも感じながら、作業を続ける。
今度はひょいっとその木材を担ぎ上げて移動。若い衆が数名がかりで持ち上げているものを、俺は一度に二本ずつ運ぶのであった。
「化物かよ、おめぇは!」
……まぁ、これでも四天王レベルでしたし。
とは内心で思ったが、口にはしない。内緒のことだった。
そんなこんなで、道路整備を続ける。単調で長い作業だから、早くとも十日はかかると思われた。
「まぁ、それでも。ゆっくりとやっていきましょうか!」
だけど、オレは思ってもいなかった。
まさか、この大事業が……。
◆◇◆
「マジかよ……」
ユリアの極めて効率的な指揮のもと、五日で終了してしまうなど。
「いやいや。リクさんとアディアさんが、力仕事の大半をやってくれたからですよ! 本当にありがとうございます!!」
「いや、うん。どういたしまして」
呆然と立ち尽くす俺に、ユリアは気遣いをみせた。
そして、後方に控える若い衆に向き直る。
「それでは、改めまして。みなさま、ご苦労様でした! 今宵はお酒も用意していますから、パーッと遊んでいって下さいね!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
しかも、アフターケアまで完璧ときた。
こればかりは、俺も思わず舌を巻いてしまう。
ユリア・グリーンフィールド――この娘、出来る!
「ささ。リクさんも一緒に飲んで、楽しんでいって下さいね!」
「お、おう。ありがとう……」
俺は彼女に酌をしてもらい、頭を掻いた。
傍らにアディアを置いて、それを一気に飲み干す。
すると、程よい苦みの後に、喉を爽快感溢れる液体が通っていくのであった。
「まぁ、いっか。色々ツッコみどころはあったけど……」
俺はそう呟いて、二杯目を流し込む。
その日の宴は、深夜にまでおよぶのであった……。




