12.ライムよせめて安らかに……
「……で? なにか弁明はあるか、ライム」
「いえ。ないでござる……」
俺は目の前にて、しょんぼりとするスライムを見下ろす。さすがのお調子者も、今ばかりは反省の色を見せていた。
「まさか、こんな目的があったなんてな」
「申し訳ないでござる。出来心だったでござる」
温泉からは陰になる場所で、ライムはそう口にする。
しかし俺は当然、許すつもりなどなく。どんな制裁を与えてやろうかと、そう思考を巡らせるのであった。だがそれにしても、呆れたものである。
まさか、よりにもよって……。
「……ついてきた理由が、覗きだったとはな」
「……………………」
そうなのであった。
このスライム、早速やらかしたのであった。
さて。それではこの少し前に、いったい何があったのか。
説明するのもはばかられるが、ライムの証言をもとに語ることとしよう……。
◆◇◆
「それじゃアタシ、ちょっと温泉はいってくるね!」
「あぁ、分かった。じゃあ俺とアディアは、周囲の見回りをしておくか」
『そうですね。微弱ながらも魔族の反応があります。要所に【結界魔法】を使っておく方がいいでしょう』
「そうだな。そうとなると、ライムにフリル、見張り頼むぞ」
「デュフフフwww合点承知でござるwww」
「キュキュキュ~っ!」
俺が言うと、ライムとフリルはいつもの感じで返事をした。
ユリアは簡易的に作った脱衣所へ向かい、ガサゴソと物音をたてる。
「……本当に、頼むぞ。ライム」
「デュフフフwwwご主人様は心配性でござるwww」
念押しすると、ライムから返ってきたのはそんな判を押したような言葉。
俺はそれ故に若干の不安を感じながらも、しかし出発することとする。俺のことを見送るマスコット二体は、何やらじゃれ合っていることが確認できた。
そして、ここからはライムの証言を交えながら説明しよう。
「にゅふwwwご主人様、行ったでござるなwww?」
「キュキュ!(そうだね)」
ライムは俺が見えなくなるとフリルにそう言った。
それは確認であった。間違いなく、主は去ったな、と。
「さぁてwwwそれなら、見晴らしの良い場所へ移動するなりwww」
「キュキュキュ?(ん、ココでよくない?)」
ライムの言葉に、フリルは疑問を投げかけた。
「フリル氏は分かってないでござるなwww」
「キュ~?(なにが~?)」
「拙者たちは、ユリア嬢になにかあった時にいち早く駆けつけねばならぬでござるよ? だとするならば、周囲を確認できる場所にいるのが最適でござろうwww」
すると色ボケスライムのアホは、そう答える。
当然ながら、この時点でツッコみを入れることは出来たのだろう。だが残念ながら相手をしているのは、まだ幼いフリルであった。
「キュ!(なるほど!)」
そのため、このように簡単に丸め込まれてしまう。
かくして二体は場所を移動するのであった。
「よし、それじゃあ。ここで良いでござるなwww」
「キュキュ!(オッケーだよ!)」
そして辿り着いたのは温泉の裏側。その草むらであった。
明らかに見晴らしなど良くないのであるが、それにフリルは気付かない。
「デュフフフwwwホントに、最高の見晴らしでござるwww」
そこからは、ユリアが出てくるであろう温泉が良く見えらしい。
ライムはことのほか上手くいったことに、ひっそりとほくそ笑むように身体をうねらせる。あるいは、単純に興奮しているのかもしれなかった。
「ユリア嬢はアディア嬢と違って、豊満でござるからなぁwww眼福眼福www」
作戦は完璧だった。
主は偵察に向かい、一緒にいるのは純粋な獣。
だがしかし、彼にとって見落としがあるとするならば、それは……。
「デュフフフwwwお、もうそろそろでござるかwww」
「何が、もうそろそろ、なんだ?」
「何を言ってるでござるか、美しき光景がでござるwww」
「ほぉ~? そりゃ、よかったな」
「ほら、ご主人様も見るでござるよwwwん、ご主人様……?」
アディアの魔族探知に、自分も引っ掛かっていた。
その一点であろう。
「よう、ライム。仕事しないで何をしてるんだ?」
「えwwwその、監視www?」
「ユリアの、か?」
「…………」
主の声から、次第に感情がなくなっていくのを理解するライム。
そして、互いにしばしの沈黙があった後であった。
「ふぎゃあああああああああああああああああああああっ!?」
けたたましい。
ライムのそんな叫びが響き渡ったのは……。
◆◇◆
そして今に至る、と。
一通りの取り調べを終えて、聖剣による峰打ち十回の刑に処されたライム。これでとりあえずは、同じようなことはしないであろう。そう思われた。
「ふぅ、いい湯だったよ~っ! ……って、あれ。ライムくんはどうしたの?」
「あぁ、気にしなくていいよ。軽い致命傷なだけだから」
「……? そうなの?」
さてさて。そんな馬鹿をやっていると、ユリアが上がってきた。
何やら罪人を心配するようなことを言っていたが、俺はそれを流す。すると彼女も納得したのか、話を次に繋げるのであった。
「ところで、アタシ思いついたんだ! 村のために出来る、新しいこと!」
「あぁ、昨日の昼に言ってたやつか。何にするんだ?」
俺は嬉々として話すユリアに、俺はそう返す。
そういえば、そんな話をしていたような気がした。結局、思いつかなかったわけだけど、彼女一人でも妙案にたどり着いたらしい。
そして、それは俺の想像の斜め上を行くものであった。
「聞いて驚かないでね! 私はこの温泉までの道を整備して……」
ドン! と、効果音が鳴るくらいの勢いで、彼女は言う。
「……村を、この世界で一番の温泉名所にしてみせます!!」
「はい……?」
『温泉の名所、ですか……?』
それを聞いた俺とアディアは、首を傾げるのであった。
あまりに壮大な計画で、俺たちの発想が追い付いて行かない。
「キュキュキュ?」
足元でフリルも疑問符を浮かべて、小さく鳴いた。
しかし、これが始まりなのであった。
過疎な村を繁栄させる、大いなる物語の……。




