11.いざ温泉へ
「え? 温泉に案内してほしいだって?」
「うんっ! ダメかな。二人の話を聞いてて、興味わいちゃって!」
さて、その日の夜のことである。
夕食と砥石を囲みながら談笑していると、唐突にユリアがそう言ってきた。曰く「そんなに凄い温泉なら、私も入ってみたい」とのことである。
『良いのではありませんか? あそこは誰の所有物でもありません』
「まぁ、そうだけど。でも、危険じゃないか? あの辺りって弱いけど魔物とか出るだろ。ユリアに何かあったら、冗談じゃすまないと思うぞ」
『ふむ。たしかに、言われてみればその通りですね』
「えーっ! そんなぁ……」
俺の言葉にアディアが納得すると、ユリアが残念そうな声を上げた。
そして頬を膨らして、不満を表現する。ぎゅーっと腕を前で絞り、上目遣いに抗議してきた。俺は咳払いを一つ。話を続けることにした。
「そうは言ったって、仕方ないものは仕方ないだろ?」
「ぶ~っ。じゃあ、身の安全が確保されてたらいいの?」
「いや、そういうワケじゃなくてだな……」
しかし、食い下がるユリア。
俺は少しだけ疲れ、ため息をつく。その時だった。
「ねぇ、リクさん? どうしても、ダメ……?」
「って、うわ!? 何やってるんだよユリア!!」
気付けば少女が、俺の隣に移動していたのは。
彼女はスッと身を寄せると、こちらに腕を絡ませてきた。そうなるとどうしても当たる部分があって、俺は全身がカッと熱くなる感覚を抱く。
不味いぞ、これは。非常に不味い……。
「ねぇ~? リクさん?」
「――――――――っ!」
だがしかし、どうする!?
彼女の要求を呑むわけにはいかないし、しかし現状は不純過ぎた。だとしたら、お互いの妥協点を探らなければならないわけで。
なら、誰かに間に入ってもらわないと……!
「ア、アディア!? お前からもユリアに何とか言ってくれ!」
『…………………………ふむ』
「ふむ……?」
俺は聖剣様に助けを求めた。
すると、何やら彼女は不思議と沈黙を作る。そして、こう言った。
『いえ。なんとなく、モヤモヤする感情がありましたから。それだけです』
淡々と、意味の分からないことを。
俺は「お、おう?」とだけ返して、それ以上は訊けなかった。
ただ確かなのは、アディアもこんな調子なので仲介は望めないということ!
「もう、誰でもいいから! 俺を助けてくれ!?」
そして俺はとうとう叫んだ。
すると、である。どこからともなく、こんな声がした。
「デュフフフフwwwお呼びでござるかな、ご主人様www?」
「……ライム! それに、フリルも?」
「キュキュ、キュ~!」
登場したのは、スライムとフェンリル。
我が家のマスコットコンビ(仮)であった。
「お前ら、どうしたんだ?」
「デュフフフwwwどうしたもこうしたもない、でござるよwww今起こってる問題の解決策を持ってきたのでござるwww」
「おぉ!? まさか、お前が役に立つ日がくるとは!」
「褒められると嬉しいでござるwww」
「キュキュ!(褒められてないと思うよ!)」
彼らが登場してくれたことによって、ユリアはとりあえず離れてくれた。
これでひとまずは、会話ができるであろう。そしてついでにライムが解決策を持ってきてくれた、ということなので、それを聞くことにしよう。
「じゃあ、聞かせてくれ。ライムの解決策、というのを……」
「にゅふwwwでは、しかと聞くでござるよwww」
そうして、スライムは話し始める。
それは本当に、まっとうな妥協案と呼べるものであった……。
◆◇◆
そして、翌日である。
俺たちは日が頂点に昇る頃、温泉に到着していた。
「うわぁ、凄いねぇ! 本当に温泉だっ!」
「あ、ユリア! あまり一人で遠くに行くんじゃないぞ!?」
「はーい、分かってまーす!!」
「本当に、大丈夫なのか……?」
俺の心配もよそに、ユリアは湯煙の立つ方へと駆けて行ってしまう。
それを眺めて、俺は足元に視線を落とした。そこにはライムが、どこか誇らしげにしている。そして、こちらを見上げてこう言うのであった。
「大丈夫でござるよwww拙者が護衛してるでござるからなwww」
「いや。イマイチ安心できないところがあるんだけどな?」
「ご主人様は心配性でござるなぁwww」
「………………」
俺は、本当にこれで良かったのか、と。
改めて、頭を抱えるのであった。
「いや、さ。ライムが周囲を警戒、護衛に回ってくれる。そしてユリアも単独行動しない、って条件は分かるんだけどさ……」
そう。それが、温泉にくる条件であった。
本当に互いの妥協点。ライムが仲介に入ったことで実現したのであった。
だが、しかし。
俺には気になることがあった。
「お前、なにかたくらんでない?」
そう。それは、この色ボケスライムの本当の目的、であった。
自分に何も得がないのに行動する。その目的が、俺には見えなかったのであった。そのため再度、ライムにそう訊ねるのであるが、返ってくるのは同じ言葉。
「デュフフフwwwなにも、なにもでござるよwww」
「本当かぁ……?」
そんな、飄々としたものだった。
俺には彼の真意が分からずに、頭を抱えることしか出来ない。
「まぁ、ご主人様はピュアでござるからなwww」
「え? ……なにか、言ったか?」
「なんにも、でござるwww」
そう言うと、ライムはピョンコピョンコと、ユリアのもとへと向かってしまった。残されたのはフリルと俺、そして腰に携えたアディア。
『まぁ。何かあれば、その時に対応すれば良いのでは?』
「そうなんだけど、さぁ……」
「キュキュ?」
アディアは俺にそう言う。
だがしかし、俺はどうにも不安が拭い去れなかった。
「とりあえず、ライムの動きには注意するか……」
俺はそう呟いて、嬉しそうな声を上げるユリアを見る。
ライムはその足元で、周囲に気を配っていた。
それだけ見れば、たしかに護衛みたいなんだけど、さ。
「まぁ、せっかくだし。俺もゆっくり羽を伸ばすとしますかね」
仕方ない。
とりあえず、俺はゆっくりと歩き出すのであった……。




