10.村おこしをしたい!
「……村の名産を増やしたい?」
それは、モモちゃん事件から数日後のことであった。
村長の娘であり、俺たちの世話係であるユリアがこう言ったのである。
「うん。うちの村って、過疎でしょ? 外からやってくる人だって、みんなヌタクサを買い取りにくる行商人さんだし。観光客さんがいたらいいのにな、って」
「観光客、か。そういえばこの村って、ヌタクサ以外は何もないんだよな」
『リクさん? 地味に失礼な言い方になってますよ』
「あははっ! 大丈夫だよアディアさん、本当のことだし!」
家の裏の畑を耕す手を止めて、そんな会話をする。
ちなみにユリアはしゃがんでこちらを見つめており、アディアに至っては壁に立てかけてあった。少し遠くに目をやると、ライムが子フェンリル――フリルに転がされて悲鳴を上げている。
「にゅほwwwちょ、おまwww痛いでござるwww!」
「キュキュッキュ~っ!」
……アレは、とりあえず笑ってるから死にはしないか。
本気のヘルプが飛んできたら対応しよう。そう思って俺は視線を戻した。
「それで、例えばなにか思いつかないのか? ユリアは」
「もう。思いついてたら、相談してないよ~」
「あー、それもそうか」
ユリアはそう言って、頬を膨らせる。
まぁ、そうだよな。おそらくは彼女なりに考え、そして色々な人に相談して、巡り巡った結果に俺たちのところへ話を持ってきたのだろう。
「だとしたら、外部から来た俺たちが案を出すしかないか……」
「ごめんね、リクさん。変なことお願いしちゃって」
「いや、別に構わないけれど。そういや、アディアは何か思いつかないのか?」
『私、ですか? うーん。そうですねぇ……』
しかし、残念ながら俺も特に思いつかなかった。
なのでアディアに話を振ってみる。すると彼女は、しばし考え込むのであった。
『あ、そう言えば。この村のものではありませんでしたけど……』
そして、何か閃いたといった風にこう言う。
『この村を助けに来る前に一緒に入った温泉、あれは気持ち良かったですね!』
「ぶふっ!? あ、あぁ……アレな。うん、そうだな」
それを聞いて、俺は思いっきり吹き出した。
なんとか取り繕うが、その様子を不思議そうに見ていたのはユリアだ。
「温泉? それに、何を動揺してるの? リクさん」
「な、なんでもねぇよ!?」
指摘されて、つい声を裏返らせてしまう。
余談であるが、ユリアにはアディアの性別を教えていなかった。したがって、ここでは物言う剣と一緒に風呂に入った男であると、ただそれだけなのである。だが、だからこそアディアの性別はバレてはいけないのであった。
そう。知らなかったとはいえ、その……混浴してた、なんてことは。
『あ、そう言えばアレって混浴、って言うんですよね! 情報はあります!』
「ぶふ――っ!?」
バレたくなかったんですけどねぇ!?
思いっきり言った。アディアから大きな爆弾が投下された!
俺はまたもや吹き出して、天を仰ぐのである。これは決定打であろうと、そう思われた。これで俺は晴れて、変態の名を授かることになるのである。
「あははっ! アディアさん。剣と人じゃ、混浴って言わないと思うよ?」
と、思っていたのだが。
どうやら、ユリアは微妙に勘違いをしてくれているらしかった。これはどうにか、極めて自然な流れで話を持っていかなければならない!
「そそ、そうだぞアディア! 剣と人間では、混浴とは言わない!!」
『……? そうなのですか。というか、何故に必死になってるのですか?』
「そそそそそそ、そんなことはないぞ!! 断じて!!」
『はぁ、そうですか。別にいいですけど……』
かくして、俺の名誉は守られたのであった。
アディアには不審がられたが、そのことはいっそどうでもいい。
俺は自身の誇りを汚さずに済んだことに、拳を握りしめるのであった。
「……? ところで、二人はどこの温泉の話をしてるの?」
その時である。
ユリアが俺たちの話に割って入ってきた。
「どこって、この村の西の山の方にある温泉だよ。知らないのか?」
「え、知らないよ。そんなの、あったの?」
俺が答えると、少女は不思議そうに小首を傾げるのであった。
ふむ。どうやら、この様子だと本当に知らないらしい。
『あの温泉なのですけど……』
今度はアディアがそう言った。
何やら記憶を、彼女の場合は情報を探っているようである。
そして、ようやく該当するものを見つけたらしい。聖剣さんはこう言った。
『湧き出す湯の中に、とても珍しい成分がありました。効能としては――おおよそ、万能と言っても良いでしょう。あらゆる病を治癒する効果があると、そう考えられます』
「マジ? あの温泉、そんなに凄かったのか……」
『だから、私も言っていたじゃないですか。効能が良い、って』
「お、おう。剣にも効くなら凄い効能なんだな、やっぱ」
俺はアディアとそんな会話をする。
それは本当に世間話のような、そんなものだと思っていた。
「………………………………」
だけど、知らなかったのである。
この時ユリアが、ひそかに瞳を輝かせていたことに。
具体的に言うと、瞳にお金のマークを浮かべていたというコトに……。




