第七十話 睨み合い(見つめ合い)
私は光のお願いで演劇「白雪姫」の白雪姫役をやることになった。
そして、現在私は波田先輩に抗議中である。
「先輩、今、何て言いましたか?」
「あぁ、だから最初は王子役を光がする予定だったが海藤がやりたいと言ってくれたのでな。変えた」
確かに新崎君が光は王子様役をするって言ってたと思ったんだよ!!なのに、なのにっ!!
「そんなに軽く変えてもいい役なんですか王子様って!!」
「いや、海藤のことは以前から目をつけていたからな。しかも、光も何故か快く王子役を譲ると言ってきた」
私はがっくりと肩を落とす。そんな私を見て波田先輩は首を傾げる。
「そんなに嫌なのか?」
「い、嫌とかではなくて、驚いてしまっただけです」
「そうか、なら問題ないな。というか、さっきの練習での奥橋の演技は素晴らしかったぞ。特に驚いている表情と王子に美しいと言われた時の表情」
いや、誰だってああなるでしょうよ!とツッコミを入れそうになったが何とか耐えた。
「兎に角、次のシーンにいってみようか」
「は、はい」
私はまだ白雪姫の衣装を着たままなのだがこの衣装すごく動きづらい。
昔のお姫様ってよくこんな服着てダンスとか踊れるよな~なんて思う。
私はドレスの裾を踏まないように持ち上げつつ移動する。
思わず足元だけを確認して歩いていたため思いっきり誰かにぶつかった。
「うゎっ」
「っ!」
「す、すみませ……ん」
私はぶつかった相手を見上げる。
そこには先ほど練習で私の顔をゆでだこにしやがった張本人がいた。
暗めの藍色の瞳の中に私の呆けた顔が映り込んでいるのがわかった。
「ちゃんと前見て歩け」
私が何も言わずにいたものだから拓斗から口を開き注意を受ける。
「う、この服、すごい動きづらいんだもん」
私は思わず明らかにこちらが悪いのにそう言い訳をしてしまう。
「だからってずっと足元見ながら歩くのかお前は」
拓斗は小馬鹿にした声で私にそう言ったので私はムッとしてしまいつい言い返す。
「そんな危険なマネは致しませんので、お構いなく!ぶつかってすみませんでした」
そう言い捨てて私は歩き出す、はずだった。
が、それは何故か拓斗に腕を掴まれて止められる。
私は拓斗を睨む。が、拓斗は何故か口角を少し上げてからこう言う。
「次のシーンはどこから始まる?」
私はそう問われたので素直に答える。
「確か、白雪姫と王子がダンスパーティで……お、どる」
言いながら私は拓斗の表情がみるみるイタズラをおっぱじめようとしている子供のような表情に変わっていくことに気づいた。
何かをしようとしている。
そう気づいた私はとっさに拓斗から離れようとしたが掴まれている腕はいまだ離されていないので動けなかった。
だから逃げそこなってしまったのだ。
「ふーん……じゃ、今から練習しようか。白雪姫」
「はい?なんのこt」
私が言い終わる前に私の両足は地面から離れていた。
そして私の目線が拓斗の肩に近くなっているのだ。
…………
あまりの突然の出来事に私は言葉が出ずにただ拓斗の顔を見上げる。
すると拓斗はこちらをすでに見つめていた模様で私と目が合うとニヤリと笑った。
「………あの、王子サマ。これは一体」
「あわてているあなたも愛らしいですね、では行きましょうか」
「口調が大変気味の悪い感じがしますわ王子サマ?あと、下していただけるかしら?」
「はっはっはー、ご冗談を」
「冗談じゃないから!!」
今、私は拓斗に正真正銘のお姫様抱っこをされながら舞台上に進んでいる。
お姫様の格好で横抱きされるなんて女の子の一生に一度の夢よ、なんて美夏が以前言っていたような気がするがこれは絶対に違う!!夢の種類が違う、悪夢だ!!
下りようともがくのだがコイツ、力が強い。
ビクともしないよ?結構全力でもがいているのにね…怖いわー。
あと、恥ずかしすぎるって!!
「王子サマー?いい加減下してくださると嬉しいのですけれど!」
私は先ほどからの役になりきった口調のノリで拓斗の肩をバシバシと叩きながらそう言う。
「それは無理なお願いだ。しかし、もしあなたが私にキスをしてくれるならそのお願いを聞いてさしあげますが?」
後半の言葉は私の耳元で囁くように拓斗は告げた。
なんですか、それ。新しいいじめかよ!?
私は顔が真っ赤になっていくのを感じながら口をパクパクと動かすことしかできなかった。
そんな私たちを他の皆が生暖かい目で見ていることを私は知らなかった。
私は結局どうすることもできずに抱きかかえられたまま壇上へと着いてしまい何故か悔しさが込み上げてきたため拓斗を睨む。
拓斗は逆に勝ち誇った笑みを浮かべながら私を下した。ちくしょう。
波田先輩はそんな私たちに声を掛ける。
「じゃあ、次は白雪姫と王子のダンスのシーンからいくぞ。白雪姫と王子は向き合って手を組んでくれ」
私たちは傍から見ると見つめ合いに見える(がただの睨み合い)ように向き合う。
そしてダンスを踊るために手を取る。
波田先輩はいつもの無表情で私たちに支持を出した。
「ここは二人ともお互いを愛おしそうに見つめ合いながら……もうできてるな。よし、じゃ、よーい、アクション!」
ワルツが流れ始めたので私は光にみっちりとしごかれたダンスを始めるため一歩を踏み出す。
未だに私は拓斗の瞳を見つめている。訂正、睨み付けている状況だった。
あわよくば足を踏んでやると思っていたのだが何故か華麗に避けられてしかもリードされている始末。
何でお前の方がダンスが上手なわけ!?
神様はやっぱり不公平だ!容姿も良くて頭も良くて身体能力も高い奴を作り上げたんだから。
そう思って私が拓斗をさらにきつく睨み付けると拓斗は何故かクスリと笑った。
何故にそこで笑う、こ、コイツ馬鹿にしている!!
と思った私に思いもよらぬ一言。
「上手いな」
「えっ?」
称賛の一言、でも何に対してだろうか。
「ダンス、思ってたより上手い」
「……どうも」
拓斗は本当に優しい笑みを浮かべてそう言うので戸惑う。
何でもできる奴に言われてもという気持ちと素直に嬉しいと思う気持ちが混ざり合ってなんか複雑になった。
ただ、照れてしまって思わず目をそらしてしまった私は悪くないと思う。
再び私が拓斗の方を向くとそこには優しい表情で微笑んでいる拓斗がいた。
ふ、不覚にもすこし少女マンガの主人公みたいにときめいてしまったのが悔しい。
やはり、イケメンは反則だと私は再確認した。
ただ、ここで照れるだけで終わると負けた気がするので私は拓斗を見つめ返してから負けじと微笑んでやった。
つまり、拓斗が王子様の微笑みを演じきったのだから私もお姫様の微笑み(できているかは不明)を堂々と演じてやったのだ。
すると、今度は拓斗が私から目を逸らした。
なんだか申し訳なくなった。
きっと見ていられない程ひどい顔だったのだろうな…でも、なんか勝った気がする!!
そんなことを考えながら私はニヤリと笑う。
その時、拓斗の耳が赤くなっていたことには私は気づいていなかった。
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