練習
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだあれ?」
真っ赤な瞳に真っ白な長い髪の少女は大きな鏡の前でそう呟いた。
真っ黒な服で身を包んでいるので余計に少女の髪の白が際立つ。
髪と同様に肌も雪のように真っ白で少女のような顔立ちにも関わらず妖艶な微笑みを浮かべる彼女は誰からも息を飲む程の美しさだと称賛されていた。
鏡の中に一人の青年が現れた。
金髪のとても美しい青年は鏡の中で片膝をついて少女に頭を垂らしたまま静かに答えた。
『それは、白雪姫です』
その言葉を聞いて少女はピタリと動きを止める。
そして次第に少女の周りの物がガタガタと揺れだした。
「なんですって」
少女はその姿には似つかないくらいに低く怒りに満ちた声でそう言う。
そんな少女に怯むことなく鏡の中の青年は再び口を開いた。
『白雪姫が生まれる前まではあなたがこの世で一番美しい人でしたが、彼女がこの世に生まれたことであなたは一番ではなくなりました』
「嘘よ!!」
少女はの周りには黒い霧のようなものが立ち込めてまるで彼女の怒りをそのまま表現しているかのようだった。
少女は怒りに満ちた表情で鏡を睨み付ける。
「では、鏡よ。もし、白雪姫がこの世からいなくなったら私が一番美しい存在になるのかしら?」
『はい。もしそのようなことになった場合はそうなります』
「そう……わかったわ」
少女はそう言うと一人の男を呼びつけた。
そしてその男に命じたのは「白雪姫を暗殺しろ」という残酷な言葉。
男は一つ返事でこれを承諾してどこかに消えた。
少女はニヤリと微笑んでからどこかに去って行く。
その少女の後姿が見えなくなってから鏡の中の青年はゆっくりと頭を上げる。
彼のマリンブルー色の瞳は少女が消えた方向をただただ見つめているのだった。
ここで「パンパン!」という手を叩く音。
「カット。ここで一旦背景が変わる」
その波田先輩(生ハムメロンを授けてくれたお方である真の恩人)の一言で一気に他の人々が動き出す。
只今、奥橋真(私)は演劇を見ていたのだが、恋の演技力には本当に驚いている。
あんなに人見知りが激しかったのに…子供の成長って早いんだなぁ…などと母親の気持ちに浸っていた。
今回、私と恋は演劇に特別出演する。しかも、何故か私は主役。
おかしい、演劇に出ることはまぁ、いいとしよう。でも、どうして主役なんだろうか。
演劇部の人々には私とは比べるのも恐れ多い程の美人な人たちが沢山いるのにも関わらず、どうしてわたしを主役にするんだよ!!
私が演じる役はなんと「白雪姫」の中の「白雪姫」という役だった。
何ででしょうか……絶対に恋の方が似合っている気がするのに。
恋は私の演じる「白雪姫」を殺そうとする恐ろしくて美しい魔女の役を演じる。
そして光は勿論、王子様役なんだろうなーと思っていたのに、何故だか、「魔法の鏡」役。
いや、似合ってるけど、なんか今まで白雪姫の中に出てくる魔法の鏡って白い顔がぼわってでてくるイメージしか持っていなかったから私の魔法の鏡に対しての印象が百八十度変わった。
あんなイケメンな魔法の鏡あったらバカ売れするだろうなぁ……と変なことを考えていると「奥橋さん次出番あるよー」という声で我に返った。
正直に言おう。練習はとてもハードだった。
発声練習から身体の柔軟性アップ法やら表情筋の使い方までみっちりとしごかれ、じゃない、教えられた。
この演劇は六月の何かのイベント(忘れた)で行うらしく、本番まで約三か月あるかないかぐらいのころに私と恋は練習を始めた。
そして、今日で約一か月が過ぎようとしていた。
衣装を着て本格的に舞台に立ってセリフを言って表情を作って、というように忙しくなってきた。
今日が恋は初めての登場シーンだったのだけども、え、演技力がすごい!!
恋ちゃん演劇に興味があるとは言っていたけど、にしても人が変わったように見えた。
恋、実は演劇部に入ったらスターになれるんじゃないかな?
は、いけない。これだから親馬鹿だと言われるのだ(主に琴音と愛奈から)。
私は今、白雪姫の衣装を着ている。
で、思った感想。似合っているのかが分からないが、まぁ、違和感はギリギリないんじゃない?だ。
つまりは、普通。なんか白雪姫ってもっとこうキラキラと輝いてなかったっけ…
うふふと笑えば周りにお花が見えるんじゃなかったっけ……
どうあがいても私にはなれないと思うのだが……
そんなことを思っている内にもう背景は変わっていた。
このシーンは白雪姫がまだ継母(本当は魔女)に追い出される前で、白雪姫がお城の中で小鳥と戯れていると王子様がお城にやってきて早速初めての出会いを果たすのだ。
ここで王子役が誰なのかと言うと、何故かまだ知らされていなかった。
波田先輩に尋ねてみたところ「その内わかる」と言われてしまった。
いよいよ、練習スタート。
私はとりあえずお城のお庭の噴水の淵に腰掛けて物憂げな表情(できているかは不明)で水面を見つめる。
ここでさすがと思ったのはこの噴水には本当に水が流れていることだ。
オズってなんでもできるんだなぁ。
水面に私の物憂げ(かどうかは不明)の表情が映る。
そして私は大げさにため息を吐く。
「毎日毎日、お母様(魔女のこと)は私を睨み付けてくるのはどうしてかしら…?」
返ってくるはずのない返事。
そして、さらに私はため息を吐く。
そんな時に私の後ろからコツコツと誰かの足音。
「どうしてそんなにため息を吐いているんだい?」
私はここで驚いた顔で振り返る。
…………………待て。何で、そこに、君がいるんだ。
私は本当に驚いて固まる。
そこにはキラキラオーラを纏った別人のような拓斗に似た人物が立っていた。
王子様の格好をした拓斗に似ている人がいる、何故?
私は頭の中で一人パニックになる。
だが、かろうじて自分のセリフは覚えていた。
「す、少し考え事をしていましたの。あの、あなたは誰ですか?」
「これは失礼いたしました。私は今日一日だけこちらにお邪魔することになった隣国の第一王子のヨハン・ルークベルトといいます。美しい御嬢さん、あなたのお名前は?」
おい、誰だこの紳士!?
私は内心でツッコミつつも笑顔を張り付けて答える。
「私は白雪です」
「あなたが白雪姫……お目にかかれて光栄です」
そう言って王子は私の手をそっととって手の甲に軽く口づける。
そして上目使いで私を見つめる暗めの綺麗な藍色の瞳。
「とても、美しい」
「っ!!」
いや、これは演技だから、本気で受け止めちゃダメだから!!と私は自分に言い聞かせるが心臓は速くなっていた。
そんな私の動揺を見透かしたように王子はフッと一瞬笑った。
その笑みを見て目の前の人物が私の知っている海藤拓斗だと私はようやく理解した。
いや、でもなんで拓斗が王子役なんだよ!?
そう大声で叫びたかったが、その前に拓斗が立ち上がって私を見下ろす形になる。
そして、再び口を開いた。が、それは私にしか聞こえないえないように仕向けられたメッセージ。
四文字。拓斗が言ったたった四文字で私は心臓が止まるかと思った。
「可愛い」
…………神様、私の顔がゆでだこ状態になる前に氷水をぶっかけてください。
私はそんなことを切実に思ったのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます!!




