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オズ  作者: 紗パカルギ
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動き出す

「あぁ、あの日を思い出す度に堪らなくあの子が欲しいオモイが強まるのだ」


暗いとある場所で女はそう呟いた。


彼女は艶やかな唇をゆっくりと自分の指でなぞると不気味なまでに美しく微笑んだ。


「まぁまぁ、落ち着いてよー。お楽しみは最後にとっておいた方が嬉しさ倍増じゃないー?」


そんな女にまだ声変わりをしていない子どもが宥めるように語りかける。


「まぁ、僕もあなたと同じく会いたい奴がいるからその気持ちもわからないわけじゃないんだけどさー?メリスがまだ駄目だって言ってるからもう少し待ちましょー?」


「…仕方がない。メリスの言うことを聞き入れよう」


「うんうん、そうしよー」



端から見たらまるで友人に会いに行きたいと話し合っているかのように聞こえる内容を二人は語っているが実際は違う。


「何を土産に持って会いに行こうか…やはり、アレを渡すべきか」

「アレを渡すのー?渡してどうなるのー?」

「わからんか?ニコルよ。アレを渡さないことには私の望む姿のあの子にはなり得ぬ」

「へぇ…あなたが望む姿って…大抵ヒドい姿じゃないー?」

「ふふっ…そうか?」

「そこで笑う時点で既に恐ろしいよー」

子どもは感情こそ籠もっていないものの、表情は少し怯えている。


そんな子どもの頭を優しく撫でながら女は呟く。


「私は壊れた人形が大好きなのだ。仕方がないだろう?」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「真っ!会いたかった!」

「私もだよ!」

そう言って真と恋はしっかりと抱き締め合う。


(恋愛ドラマのワンシーンか!)


と周りにいた皆は心の中だけでツッコミを入れる。



只今、季節は春。

つまり、三月だ。

中丸先生と拓斗に散々鍛えられた結果、真もやっとキングとしての立場に相応しい体力や応用力を培うことができるようになってきた。


そして今日はなんと三年生のキングの人々の離任式だ。つまり、麗矢先輩やイケメン女子如月友音先輩や背は小さいが頼りになるチー先輩が生徒会を卒業する日だった。



オズ学園では高校を卒業するとすぐに別の島にあるオズ大学に行くことになる。



そこでまた一人一人学科を決めて自分の将来を決めるための学習をするらしい。ただ、二年間という期間なので高校卒業の時点で大体やりたいことを決めていた方がいいと言われている。



「あ~ぁ…真ちゃん達と会えなくなるのは辛いなぁ」

相変わらずの麗矢先輩の言葉に真は苦笑する。



「学園の事は、君達に託すよ。この三年間本当に素晴らしい経験をさせてもらった。あ、次の生徒会長は東堂勇人君だよ」



「「え?」」


生徒会室にいた三年生以外の人々は首を傾げる。


当の使命された本人も「マジカ?」という言葉を顔で表現していた。



そんな皆が固まった状況の中、声を発したのは三つ編みおさげの髪型の二年生の先輩だった。


「金髪ピアスが会長になっていいの!?まぁ、今日の朝占っててわかってたけどさ!」


ん!?この声は学園祭の時に占ってもらった人の声に似ているような…?


そう思って恋にこっそり聞くと恋は驚いた表情で真を見つめてきた。

「真、知らなかったの?占いは百発百中で当たる、見た目は大人しげなのに口を開くと姉さんぶりを発揮するキングの一人、喜多きた 千景ちかげ先輩だよ」


真は正直言って、東堂先輩の学年のキングを東堂先輩以外よく見たことが今までなかった。

別に覚えなかったのではなく、本当に会う機会が今まで一回もなかったのだ。



深緑の髪を三つ編みに結い、二つのおさげ。眼鏡はかけていないが真面目な優等生な雰囲気がある。


なのに、今話している姿を見ると見た目とのギャップがすごかった。



「おい、東堂!あんたそこまでして会長になりたかったのかい?」

「いや、少しもなりたいとは思ってなかったが」

「へぇ…面白いことになったねぇ!まぁ、あんたがだらしない時は私が端から見守っておくから安心しな!」

「断る」

「なんだって!?」


何だろう、お母さんと息子を見ている気分になってきた。


すると、そこに元会長となったばかりの麗矢先輩が口を挟む。


「ちなみに、副会長は君だよ。喜多千景ちゃん!」

「おや、私?」

「うわ、厄介な奴が」

「お黙り金髪ピアス」



なんか、頼もしくも見えるが不安にも見えるのはどうしてだろうか。




そんなこんなで無事に?離任式は終了した。




そして離任式と同時にその日は終業式でもあった。


つまり、明日から春休み(約二週間)に突入する。



真達キングは学年が上がっても担任は勿論、生徒の顔ぶれも変わらない。



しかも、春休みは学生寮で宿題に追われるだけなのだ。

多分。

だから少し憂鬱だ。




春休みの初日の日、真は朝早くに目が覚めてしまった。


二度寝をしようかとも考えたが目はバッチリ覚めてしまい、無理だと理解する。


真は朝日を浴びながら寮の外に出て大きく伸びをしてから、ふと後ろの人物の気配に気がついた。



「?」

振り向くと、そこにはマリンブルーの長い髪を風でなびかせ、同じ色の瞳は朝日に反射して息を呑むほど美しい女性が立っていた。


「あの、どちら様でしょうか?」

そう尋ねると女性は少し悲しそうな表情をする。

「…やはり、覚えてない、か」

「はい?」


真は戸惑っていたこともあり、この時重要な点に気づいていなかった。


「奥橋、真…」

「あの、本当に誰?」

「ふふ…知りたい?」


そう言って真を見つめる女性は一瞬で間を詰めてきて真の頬に両手を滑りこませ、優しく撫でた。

あまりの速さに真は一瞬固まったがすぐにその女性から一歩身を引く。


頬を撫でられた瞬間に身体中に寒気が走り、そしてやっと気づく。

目の前の女性は最近、夢の中でよく見かける人だということに。

真はそのことを尋ねようとしたその時、突然胸が苦しくなってきた。

「あ、れ?」

「お前には少し時間をやる。だから、ゆっくりと壊れておくれ」


女性の瞳は怪しい光と共に真を映してまるで愛おしい者を見つめているかのように優しかった。しかし、同時に狂気にも染まっていた。


真は苦しさのあまり膝を地面につく。

心臓が痛い。息が上手くできない。


そんな真をしばらく見つめた後、女性は黙ってどこかへ去って行った。

呼び止める声を発する元気など残っておらずに真は胸を押さえて浅い息を何度も繰り返す。


誰か、助けを呼ばなくては。


そう頭ではわかっているものの真の身体は言うことを聞いてくれず、だんだん意識が遠のいて行く。


このまま死んでしまうのかもしれない。


真はそんなことを考える。

その内とうとう地面に倒れ込んでしまう。


そしてそのまま真は瞼が重くなり、意識を失った。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「……こと、真!!」


「っはいっ!」


真は反射的にベッドから起き上がる。


目の前には頬を膨らませて腰に手をあてている恋の姿があった。

「恋?」

「おはよう、真!もう、部屋の前で何回呼んでも反応がないから入って来ちゃったよっ!今日は、皆で朝ごはん食べる約束だったでしょ?」

「う、うん」


どうして、私は、何で自分の部屋にいるのだろう。外で倒れたはずじゃ…

誰かが運んでくれた?いや、でも、倒れていたらきっと大騒ぎになっていたはず(主に恋が)。


それに、もう心臓の痛みもなくなっている。

さっきの出来事は全部夢だったのだろうか。私は最初から目は覚めていなかったのだろうか。


頭の中が混乱していた真はボーっとしていたらしい。

恋に優しく頭をポンポンと叩かれて「寝ぼけてる?」と言われた。


「ご、ごめん。今、起きるから!先に食堂に行ってて!」

「うん、わかった。席を取っておくね」



真は部屋で服を着替えたあと、食堂へと急いだ。



まだ朝の出来事は何だったのかという疑問は残っているが、きっと夢を見ていたのだろうという考えで終わらせた。





朝食を食べ終わった後、恋達と食堂で他愛もない会話をしていると遠くから、黄色い歓声があがる。


その歓声の先には何故か猫耳を付けた霧がいた。


「…何をしているの、新崎君は」

「……本物の猫の方が可愛い」

真と恋は呆然と霧を見つめる。


「多分、また光の演劇に特別参加でもするんじゃないかな」

「か、可愛いなんて思っておりませんわよっ」

そんな愛奈の言葉に琴音は微笑ましそうに「はいはい」と言う。



どうやら琴音情報いわく、新しく入ってくる新入生の歓迎会で演劇部は『白雪姫』の劇をするらしく、今日から二週間休む暇なく演劇部は練習をするらしいのだ。


もともとの練習は結構前から始まっているそうなのだが、この二週間で仕上げをするらしい。



「白雪姫かぁ…勿論、光は王子様役だよね?」

真が琴音に聞くと琴音が答えるより先に「そうだよ!」という元気な声が答えた。


いつも間にか猫耳を付けている霧が真達の傍に来ていたのだ。


霧は黒い猫耳を付けており、少し首を傾げた。


くそう、可愛いと思ってしまう…


「俺は、猫役で出るんだ!」

「白雪姫に猫って出てくるっけ?」

「俺もよくわかんないけど出てくるんだってさ!!」


よくわからないのかよ!!


「しかもこの猫耳自由に動かせるんだ!ほら!」

そう言って霧の頭に付いている猫耳が可愛らしくピコピコと動いた。


「何それ!どういう仕掛け!?」

「俺もよくわかんない!」


そう言ってにかっと笑うのは反則だよ、新崎君…

というかこの子自分の可愛らしさをわかっててやってる?それなら小悪魔だな…



「なぁ、どういう仕掛けかわかる?愛奈」

「ふぇっ!?わ、私!?」

愛奈は顔を真っ赤にしながら霧から目を逸らす。


「し、知らないに決まっているでしょう」

「そっか、じゃあ、…似合う?」

「そ、それは……まぁ、似合わないというわけでもないとは思いますわ」

「ってことはあんまり似合ってない?」


ここで霧のしょんぼりとした声と連動して猫耳もペタンと項垂れる。


す、捨てられた子猫に見える…


愛奈はさらに顔を真っ赤にしながら首をブンブンと横にふる。

「に、ににっ、似合っていますわ!とっても、えぇ、もう可愛すぎですわよっ!!!」

半ばやけくそだと言わんばかりの口調に聞こえたが愛奈なので皆は温かい眼差しで見守っていた。




そんな時だった、真の頭の中に突然何かの映像が流れ込んできたのだ。


『見て見て!お母さん!これ似合うー?』

『えぇ、とっても似合っているわよ、真』

『えへへ…明日お父さんにもこのいしょう見せてあげるんだ!』

『それはお父さんきっと喜ぶわね』


小さい女の子が魔法使いのとんがり帽子を頭に被り、黒いマントを身に纏っている姿を母親に見せている。

これは一体、何の誰の記憶なのかと思ったが、先ほど母親から発せられた言葉の中に自分の名前があった。つまり、この人が…お母さん???



確かめることなどできずに映像はそこで途切れた。



「真?どうしたの?」

琴音が心配そうにこちらを見つめている。

「……何でもないよ、まだ寝ぼけてるだけ」

「早く起きなさい!」

恋からツッコまれた。


真は「ごめんごめん」と言って笑う。


真は本当に、まだ寝ぼけているだけなのかもなぁ、と思ってさっきの映像の疑問を無理やり押し殺す。


『知りたいか?』と聞いてきた女性の声が頭の中でずっと消えずに残っていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます!!

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