伝言
「まさか一番厄介な相手とペアになるとは思ってなかった…」
真はそう呟いて自分の部屋のベッドにうつ伏せになる。
そんな真のそばで同じく呟く人物が一人。
「真と一緒が良かったな…」
可愛らしい真っ赤な瞳を少し細めて頬を膨らます恋の姿はまるで小動物を思わせる。
「まぁまぁ、きっと拓斗は恥ずかしがり屋だから真に素直になれないだけだよ」
女神のように慈愛に満ちた声で琴音は真の頭を優しく撫でる。
「こ、光も腹黒いところもありますけど、ちゃんと女の子には優しいですわよ?」
恋の近くでワタワタと手を震わせながら愛奈がフォローになっているのか微妙なフォローをする。
只今、真達は真の部屋に集まって女子トークなるものをするつもりだったのだが、ただの真と恋を慰める時間にいつの間にか変わっていた。
「大体さぁ、何で寄りによって拓斗様々なんだよ…」
「堕天使のくせに」「ずーっと馬鹿しか言わないし…」
「ずっと王子スマイルだった」
「「はぁ…」」
(溜め息は揃った!)
愛奈はそう思ったが口にはしなかった。いや、正確にはする勇気がなかった。
何か言葉を掛けたら二人とも愚痴が止まらなくなりそうだったからだ。
だが、ここで口を開いた勇者は琴音だった。
「二人共!そんなに露骨に嫌がるのは拓斗と光に失礼だと思うよ?」
「「…ごめんなさい」」
琴音の言葉の威力恐るべし!!
愛奈は琴音を尊敬の眼差しで見つめた。
すると、琴音はパンと手を鳴らしてから話題を変えた。
「さ!後ろ向きな気持ちは止めて前向きな考えをしよ?」
女神スマイルはあまりに神々しくて真は直視できなかった。
その後たわいもないお喋りを沢山した女子達は早々と明日に備えて眠りにつくのだった。
翌朝。
真達キングは皆と同じ場所で朝食をとることはあまりなく、キング専用の食堂があるのでそちらを使用する者がほとんどだ。
何故分けられているかは大体察しがついた。真は今、恋と琴音と愛奈の三人と一緒に朝食を食べていたのだが、落ち着かない。何故なら朝早くから黄色い歓声が食堂の外から聞こえてくるからだ。
確かに何故か今キングになっている人々は美形が多いもんね…(遠い目)
やっぱり神様は不公平だと改めて思うな、うん。
「真、食欲ない?」
真が自分の疎外感を感じていた間手が止まっていたようで、恋が心配してくれたようだ。
「うぅん、違うよ!ちょっと考え事!」
「そう?ならいい」
恋は心配性だなぁ~なんて思いつつ真は朝食のご飯をお箸でつまんで口に入れる。
相変わらず、オズ学園の食堂の料理は白米一粒一粒でさえも素晴らしく美味しい。
そんなことを思ってご飯を噛み締めていたら耳元で声が聞こえた。
「お米、そんなに美味しい?」
そう聞かれたので真は口の中のご飯をゴクリと飲み込んでから、「はい!」と答えた。
すると、その人は軽く笑ってから真の頭を撫でだした。
ここで真はやっと異変に気づいた。
誰だと思って頭を上に向けるとそこには金色の瞳があった。
「あ」
「おはよう、真ちゃん」
「おはようございます。麗矢先輩」
「あぁ、真ちゃんだけでなくこんなにも沢山の女の子と朝から顔を合わせることができるなんてっ!今日1日、頑張っていけそうだよ」
このような言葉を吐いて軽い奴だと思われずに済むのはこの人だけかもしれないな…と真は真剣に思った。
と、ここで真はエステルとの約束を思い出した。
「麗矢先輩!」
「ん?何?」
ニッコリと優しく微笑みながら麗矢は真に先を促す。
「あ、後で少しお話ししたいことがあるんですが…その、二人だけで」
勿論、麗矢の妹である時の管理者エステルのことなのだが、周りで真の発言を聞いていた人々は固まった。
しかし、麗矢はすぐに「喜んで」と答えた。
あまりに即答だったので皆さらに固まった。
「じゃあ、朝食を食べ終わったら生徒会室においで」
「はい!ありがとうございます!」
~朝食後~
「ねぇ真、考え直そう?絶対に騙されてるよ!!」
「恋ちゃん、何かとんでもない勘違いをしてないかい?」
「あぁ、真!大丈夫だからね…私が必ず洗脳を解いてあげr」「恋ちゃ~ん!…ダメだこりゃ」
恋が俯いてブツブツ呟きだしたらもう誰にも止められない。
真は首を傾げる。
「一体どこをどう見て勘違いをしたんだろう…」
すると、愛奈が大袈裟に溜め息を吐いた。
「どこからどう見ても勘違いしますわよ?先程の発言だと」
「え?そうかな?」
「…はぁ…今度からは気をつけたほうが良いと思いますわよ」
「うん、気をつけるよ?」
「絶対わかっていませんわね!?」
真は笑ってごまかした。
生徒会室前で真は一つ大きく深呼吸をする。
エステルから託された言葉を麗矢先輩に伝えるという使命があるのだが、なにしろ家族のことだからあまり大勢の前では話さないほうが良いのではないだろうか?
そう考えた真は心配でついてきてくれた恋達にここで待っていてほしいと伝える。
すると、恋がますます不安げな表情を浮かべた。何故だ?
そんな恋を琴音と愛奈がなだめている内に真は生徒会室のドアをノックした。
するとすぐに麗矢先輩が出てきて「どうぞ」と入れてくれた。
中に入ると麗矢先輩と真以外は誰もいなかった。
「お茶はいる?」
麗矢先輩がニコニコとした表情でそう尋ねてきたが真は断った。
「あの、突然ですけど一つ聞いていいですか?」
「構わないよ」
「麗矢先輩には…妹さんがいたりしますか?」
その言葉を聞くやいなや麗矢先輩は珍しく驚いた表情をした。そして、少しの沈黙の後、すぐに表情が戻って「あぁ、いるよ」とだけ答えた。
「その子の名前、真城 星歌ちゃんではないですか?」
「そうだよ、よく知ってるね」
「実は」
真はエステルとの出来事を細かく麗矢先輩に説明した。
麗矢先輩は静かに優しい眼差しで真を見つめながら相槌をうち最後まで聞いてくれた。
「…ということでして…エステルからの伝言を言ってもいいですか?」
「うん、是非ともお願いするよ」
真はなるべくエステルの思いが伝わるようにゆっくりとしっかりと言った。
「『レイヤ、大好きだよ』…これがエステルの…星歌ちゃんからの伝言です」
「…そうか…俺も、大好きだよ…星歌」
そう呟いた麗矢先輩は優しく微笑んでいた。
でも、何故か泣いているように見えた。そういえばエステルも今の麗矢先輩と同じような表情をしていた時があったような。
「ありがとう真ちゃん。君のおかげで久しぶりに妹と会えた気分になったよ」
「いえ、こちらこそ話を聞いてくださってありがとうございました」
聞きたいことは沢山あった。でも、深く追求してはいけない気がした真はそれ以上何も言わなかった。
すると、麗矢先輩は「あ!」と声を発してから慌てた様子で真を見る。
「ごめん、真ちゃん!もっと君とお喋りしたいんだけど、俺これから行かなきゃならないんだ!」
「あ、忙しいのにすみませんでした!」
「いいよいいよ~!んじゃ、またね!…今日はありがとう」
そう言って麗矢先輩は真のおでこに軽くキスをして去っていった。
残された真は顔を真っ赤にして恋達に呼ばれるまでその場で固まっていたのだった。




